「ひので」とIRISがとらえた太陽コロナ加熱メカニズムの観測的証拠
【2015年8月24日 国立天文台】
太陽の表面温度は約6000度だが、外側に広がる太陽大気コロナは約100万度の高温ガスでできている。どのようなメカニズムでコロナの高温が維持されているのかはわかっておらず、「コロナ加熱問題」と呼ばれている。磁場の強い場所から特に強いX線が放射されているという観測結果から、コロナ加熱問題の謎を解く鍵は太陽の磁場にあると推測されている。
日本の太陽観測衛星「ひので」のこれまでの観測で、磁力線を伝播する波動「アルベン波」がとらえられており、波動が太陽大気中に満ち溢れていることが明らかになっている(参照:「「ひので」の成果が、科学雑誌「サイエンス」の特集と表紙に!」)。アルベン波はコロナを高温に保つエネルギーをじゅうぶんに持っているが、高温を維持するには波のエネルギーが熱エネルギーへと変換されなければならない。
JAXA宇宙科学研究所および名古屋大学の岡本丈典さんと国立天文台のパトリック・アントリンさんらの研究チームは、エネルギーの変換過程を明らかにするため、「ひので」とNASAの太陽観測衛星「IRIS」で観測したプロミネンスのデータを解析した。その結果、プロミネンスの温度が1万度から少なくとも10万度へ上がる様子が明らかにされた。プロミネンスの多くが波動を伴っており、波動が加熱に寄与していることが示された。
また、「ひので」がとらえたプロミネンスを構成する磁力線の上下振動とIRISがとらえた奥行き方向の運動とを比較すると、振動の最上点と最下点で速度が最大、中心で速度がゼロになっており、通常想定される振動パターン(最上点と最下点で速度ゼロ、中心で速度最大)とは異なるものであることがわかった。
この特異な動きの原因を明らかにするため国立天文台のスーパーコンピュータ「アテルイ」を用いて数値シミュレーションを行ったところ、「共鳴吸収」と呼ばれるメカニズムでプロミネンスの振動エネルギーがプロミネンス表面の運動に変換される様子が再現された。プロミネンスの上下振動と表面の運動によって生じる乱流(無数の小さな渦)は、波のエネルギーを熱エネルギーに変換させる上で非常に重要なものだ。共鳴吸収とそれに関連する現象により、プロミネンスの加熱や特異な振動パターンなど観測された特徴が矛盾なく説明できたと言える。
「ひので」とIRISの観測、および「アテルイ」によるシミュレーションから、波動の熱化現場を太陽コロナ中でとらえることに世界で初めて成功した。波のエネルギーから熱エネルギーへの変換過程を実証的に調べることが可能であると示した意義は大きく、今後、波動によるコロナ加熱問題解明への研究が進むと期待される。
〈参照〉
- 国立天文台 ひので科学プロジェクト: 日米太陽観測衛星「ひので」「IRIS」の共演:太陽コロナ加熱メカニズムの観測的証拠を初めて捉えた
- Astrophysical Journal Letters:
〈関連リンク〉
- 国立天文台「ひので」: http://hinode.nao.ac.jp/
- NASA: http://www.nasa.gov/
- 太陽観測衛星「アイリス」:http://iris.lmsal.com/
- アストロアーツ:
- 投稿画像ギャラリー: 太陽
- 星ナビ.com こだわり天文書評:
〈関連ニュース〉
- アルベン波、コロナ加熱問題、「ひので」:
- 2015/07/02 - 「ひので」EISチームが英国王立天文学会の賞を受賞
- 2014/12/18 - 金星探査機「あかつき」が明らかにした太陽風加速
- 2013/01/24 - 太陽コロナの謎を解く決定的瞬間
- 2012/09/10 - 世界初、時速2万kmのジェットなど太陽表面現象を地上で再現
- 太陽観測衛星「アイリス」:
- 2013/07/02 - 太陽コロナの謎を解く決定的瞬間
〈関連製品・商品〉
関連記事
- 2024/04/02 太陽の極は赤道に比べて7℃暖かい、「傾圧不安定波」の観測から判明
- 2023/12/22 2024年1月1日 初日の出
- 2023/12/11 100年前の黒点観測記録が太陽活動の長期変動の研究に貢献
- 2023/09/06 インド、初の太陽観測衛星の打ち上げに成功
- 2023/08/08 三つ子の赤ちゃん星にガスを届ける渦状腕
- 2023/06/29 太陽の熱対流が磁場をねじり、フレアを起こす
- 2023/05/10 太陽フレアが生命の材料を作った可能性
- 2023/04/07 プラズマの波が宇宙線を効率的に加速する
- 2023/01/16 太陽黒点を自動で数える新手法
- 2023/01/11 一人で40年、世界屈指の安定性を誇る太陽観測記録
- 2022/11/22 実験室でミニチュア太陽フレアを生成
- 2022/09/20 太陽磁場の反転現象「スイッチバック」の謎を解明
- 2022/08/17 ガイアのデータで描く太陽の未来
- 2022/07/08 太陽コロナを効率的に加熱するマイクロフレア
- 2022/03/24 太陽型星では大気の加熱メカニズムは普遍的
- 2022/03/07 太陽コロナの特殊なイオンを実験室で生成
- 2022/03/03 太陽表面の乱流運動を深層学習でとらえる
- 2021/12/24 1957-8年、太陽活動が観測史上最大級の時期のオーロラ国内観測記録
- 2021/12/15 若い恒星のスーパーフレアに伴う物質の噴出を初検出
- 2021/09/27 過去の記録からダルトン極小期の太陽活動が明らかに