ハワイ島北西部沖地震による各天文台の被害状況

【2006年10月23日 すばるKech ObservatoryGemini ObservatoryCFHTNASA IRFTUKIRTJCMT

10月15日にハワイ島で発生した地震は、同島マウナケア山頂の望遠鏡群を直撃することになってしまった。鏡面の破損などといった最悪の被害は免れたものの、周辺機器のひずみ、位置のずれなどが発生している。巨大望遠鏡には高い精度が要求されるだけに、どの天文台も慎重な点検と修復を続けている。完全な復旧には、もうしばらく時間がかかる見込みである。


(望遠鏡架台部の修復作業) (ケック天文台の制御室)

ケック天文台における修復作業のようす。上:望遠鏡架台部を修復する技師たち。モーター回転軸の軸受に使われる油が光を反射している。下:制御室のようす。時計は地震発生の時刻で止まってしまった(提供:Kech Observatory)

(JCMTの傾角計の信号)

JCMTの傾角計に記録された地震の縦揺れの様子。2000mVの電圧が100秒角に相当する。地震後、電源の供給が途絶えたことで傾角計からの信号自体がとだえてしまった(提供:JCMT

地震は現地時間10月15日7時過ぎに発生した。マグニチュード6.5と5.8の2回の揺れが確認されている。震源からほど近い、マウナケア山頂に存在する13の観測施設のうち、とくに大型の望遠鏡における被害状況は以下の通りである。

国立天文台ハワイ観測所(すばる望遠鏡)(口径8.2メートル)

外見上は各部に大きな損傷無し。しかし、望遠鏡の駆動精度がじゅうぶんでないため、10月末まで調査と修復作業を行う。この間は、一般見学も中止される。

望遠鏡の正常動作確認後、各観測装置を搭載して調整が完了したものから運用を再開する。

ケック天文台(口径9.96メートル×2台)

制御室やロビーでガラスが割れるなどの被害があったが、人身や望遠鏡本体への被害なし。各観測装置やコンピューターおよび内部のデータにも影響なし。

一方、稼働中のものとしては世界最大を誇る望遠鏡を支える架台には、被害が出ている。望遠鏡の重さは300トンで、地震の際にブレーキなどの駆動部には10万ポンド(約45トン)の物体がのしかかる程度の力が加わった。そのため、これらの部品の交換作業が行われている。交換さえすめば、あとは地面自体がずれた影響を補正するだけで、2台の望遠鏡は早ければ今週中に運用を再開できるという。

ジェミニ北天文台(口径8.0メートル)

地震直後にスタッフが集まり、緊急点検を行った。非常用電源と制震装置が稼働したことで、望遠鏡本体などに大きな被害はなかったが、慎重に点検を行い万全を期すまで運用再開はしないことが確認された。

駆動部を中心とした点検は段階的に行われ、その過程でいくつかの部品を交換。20日には、経緯台が高度・方位ともに通常速度で動くことを確認した。今週は、天候がよければ夜空に望遠鏡を向けての調整を行う予定である。

カナダ・フランス・ハワイ望遠鏡(CFHT)(口径3.58メートル)

オフィス部分で家具が倒壊するなどしたが、望遠鏡本体に外見上の被害無し。しかし、駆動部と周辺機器に大きな被害。とくに、エンコーダー(望遠鏡が向いている方向を検出してコンピューターに伝えるための装置)は金属の部品がバターをすくったかのようにえぐれるなどして、交換されることになった。

世界最大のピクセル数を誇る天体撮像用CCDカメラ、MegaPrimeは無事だった。

19日の時点でおおむね復旧は完了した模様。後は、天候が晴れ次第最終調整を行うとのこと。

NASA赤外線望遠鏡(IRFT)(口径3.0メートル)

外見上は問題なく、17日には早くも土星を観測して装置が正常動作していることを確認した。ただし、今後何らかの問題が発生する可能性もあるとしている。

イギリス赤外線望遠鏡(UKIRT)(口径3.8メートル)

地震直後の点検で、大きな被害がないことを確認。とくに大きな修復をすることなく18日に観測を実施し、望遠鏡のずれも補正した。通常運用に戻ったと言える状態である。

ジェームズ・クラーク・マックスウェル望遠鏡(JCMT)(口径15メートル電波望遠鏡)

地震直後しばらく停電状態にあったが、すべての装置の復旧を確認。望遠鏡の傾きはときおり検出器によりモニタリングされているが、はからずもその検出器が地震計の役割を果たすことになってしまった。

<参照>

<関連リンク>

<関連ニュース>