日本天文学会2006年秋季年会でのトピックス

【2006年9月22日 日本天文学会】

9月19日から21日まで九州国際大学において「日本天文学会」(2006年秋季年会)が開催された。学会に先立って開かれた会見では、話題の惑星定義問題への対応のほか、赤外線偏光観測によって明らかにされたオリオン座大星雲の若い大質量星や褐色矮星の星周構造や、早稲田大学が建設した巨大電波干渉計による観測成果などについての発表が行われた。


《オリオン座大星雲からの赤外線の偏り》

(近赤外線でとらえたオリオン座大星雲の画像)

近赤外線でとらえたオリオン座大星雲。クリックで拡大(提供:国立天文台・名古屋大学)

(若い星の周囲の構造の模式図)

若い星の周囲の構造の模式図。クリックで拡大(提供:国立天文台)

国立天文台、名古屋大学、京都大学からなるチームは、赤外線波長の偏光観測を広範囲かつ高感度で行うことができる装置を南アフリカにある赤外線観測装置IRSF/SIRIUS用に製作した。この装置によるオリオン座大星雲の観測から、これまででもっとも広い領域の赤外線偏光画像が得られた。また、若い天体の星周構造がつくる赤外線反射星雲が数多く発見された。

宇宙を漂うガスと塵が互いの重力で集まることで恒星が誕生し、その形成途上にある若い星の周辺には回転する円盤構造が形成される。この円盤に対して垂直な方向に吹き出すガスの流れ(アウトフロー)によって、星の両極に大きな空洞が形成される。この円盤の表面とアウトフローの間の空洞の壁が星の光によって照らされることで、そこにある塵に光が反射されると、強く偏光した光となる。

通常の撮像観測では、このような偏光した光とそうでない光を区別することはできないのだが、このチームが製作した装置では、塵によって反射した光の成分のみを検出することができる。これにより、数千個もの星の形成が集団で進んでいるオリオン座大星雲について、いままでにない広い領域の赤外線偏光分布が明らかとなった。また、星雲の中心にあるIRc2、BNと呼ばれる天体のうち、過去の観測によって指摘があったBNに伴う反射星雲以外に、初めて若い大質量星であるIRc2に伴う、差し渡し2光年におよぶ双極の反射星雲が観測された。大質量星の形成と進化のプロセスには謎が多く、大質量星が周囲の物質を吹き払いながら進化する様子をとらえた重要な観測結果となった。

また、このチームでは、中・低質量の若い星の周りに広がる小さな赤外星雲(広がりは0.05から0.5光年)を新たに13個発見した。これらの赤外星雲は、それぞれが星周構造が付随することを強く示す証拠であり、若い星の円盤、アウトフローシステムの研究に重要なサンプルとなると考えられている。これ以外にも、褐色矮星2天体について、初めて直接的に小さな星周構造の存在を示す結果も得られており、今後は、たとえばALMAのような解像度を持つ大口径望遠鏡によるこれら天体の観測が望まれている。


《宇宙の激変をにらむ巨大アンテナ群》

早稲田大学の那須観測所では世界で初めて、電波で毎日宇宙をモニターする観測所を建設した。この2年間の観測で予想外の新種の天体を発見している。

早稲田大学では、電波で天の川を観測することで、数年に1度強い電波爆発を起こす白鳥座X-3のような不思議な天体を銀河系内に発見することができるはずだと考え、1980年から電波によってリアルタイムで宇宙をとらえるための観測装置の開発を続けてきた。

そして同大学は、1998年に栃木県の那須に巨大電波干渉計を建設、その後精密な観測を開始した。観測を始めたところ、本来の目的であった天の川銀河よりはるか離れた方向に、4つの電波トランジェント(短時間だけ電波で明るく輝く天体)を発見したのだ。

このトランジェント天体については、ガンマ線バースト天体のようにわれわれの銀河系から遠い距離にある可能性と太陽系に近い可能性の両方が考えられており、観測を続けている早稲田大学では、その正体を突き止めるため、またそれ以外の未知の天体発見を目指し、今後も観測を続けていく意向だ。