40年ぶりの公演:舞台は天王星、役者は衛星、観客はハッブル宇宙望遠鏡

【2006年9月7日 Hubble Newsdesk

9月6日に衝となり、夜空で見ごろを迎えている天王星の画像を紹介しよう。小型望遠鏡では青緑色の小さな円盤程度にしか見えない天王星だが、NASAのハッブル宇宙望遠鏡は手前を横切る衛星と、その影をとらえた。しかし天王星の特徴を考えると、この光景は約40年ごとにしか見られない貴重なものなのだ。


(天王星の手前を横切るアリエル)

HSTが撮影した天王星。白い点が衛星アリエルで、その右には天王星に映った影がみられる。クリックで拡大(提供:NASA, ESA, L. Sromovsky (University of Wisconsin, Madison), H. Hammel (Space Science Institute), and K. Rages (SETI))

(地球から見た天王星と衛星)

地球から見た天王星の衛星軌道の変化。クリックで拡大(提供:NASA, ESA, and G. Bacon (STScI))

現在、天王星を観望するチャンスだ。9月6日に衝となり、一晩中見られる状態である。明るさは5.7等級しかないが、双眼鏡で簡単に確認できるし、小型の望遠鏡では色もわかる。この機会に観測に挑戦してみたいところだ。

天王星の観望シーズンは、ほぼ1年に1回やってくる。ところが別の意味で、天王星は絶好の観望チャンスを迎えている。40年ぶりに、天王星に衛星の影が映るようになったのだ。ただし、普通の望遠鏡では見られないのであしからず。

巨大ガス惑星の手前を衛星が横切って、惑星の表面に影ができるのはよく見られる光景だ。特に、木星の前をガリレオ衛星が横切る様子は、望遠鏡による観測対象として人気である。しかし、頻繁に発生していそうなこの現象が、天王星ではなかなか起きない。

それは、8個ある太陽系の惑星で唯一、天王星が横倒しに自転しているからだ。

木星でも天王星でも、衛星はほぼ惑星の赤道に沿って公転している。木星の自転軸はあまり傾いていないため、常に太陽から見て正面に赤道がある。そして、頻繁に衛星が横切り、木星に影を落とすのだ。一方、自転軸がほとんど垂直に傾いている天王星の場合、太陽から見ると赤道が見えていることもあれば、北極もしくは南極だけが見えていることがある(解説参照)。赤道が太陽を向いているころは、その上を通る衛星が影を落とすこともあるが、それ以外の時期に衛星が太陽と天王星の間に入ることは決してない。つまり、天王星の表面に衛星による影ができる時期は、84年の公転周期の間に2回しかないのだ。

2007年、天王星は「春分」を迎える。すなわち、ちょうど赤道が太陽の方を向く。およそ40年ぶりに、衛星の影が見られる時期が来たというわけだ。ところが前回のシーズン、すなわち「秋分」だった1965年前後は、影を観測できるほどの望遠鏡は存在しなかった。しかし現在、観測手段は大きく発達している。今年の7月26日、高い分解能を誇るハッブル宇宙望遠鏡HSTが、史上初めて、天王星に落ちた衛星の影をとらえた。

影を落としている衛星の名は「アリエル」。天王星の衛星の名前は、多くがシェークスピア作品の登場人物だ。アリエルも、戯曲「テンペスト」に登場する風の精霊である。大きさは月の3分の1だが、天王星の5大衛星の1つで、その中では天王星にもっとも近い。もっとも近いということは、天王星の前を横切るようになるのももっとも早いということだ(右図参照)。今後は外側の衛星、「ウンブリエル」「タイタニア」「オベロン」などが、次々と天王星を舞台に天文ショーを演じてくれるだろう。

横倒しの天王星

天王星は自転軸が大きく傾いているのが特徴だ。地球は地軸が23.4度傾いているが、天王星の傾きは97.9度。ほぼ横倒しの状態になっている。このため昼夜は自転によって入れ替わるのではなく、公転運動につれて入れ替わる。天王星の公転周期は84年なので、昼と夜がそれぞれ約40年ぐらい続いていることになる。(「150のQ&Aで解き明かす 宇宙のなぞ研究室」Q.072 天王星と海王星ってどんな惑星? より抜粋 [実際の図入りの紙面をご覧いただけます])