カッシーニ最新画像:これがタイタンの桃源郷

【2006年7月25日 NASA JPL News Releases

「桃源郷」は想像上のものではなくなった−NASAとヨーロッパ宇宙機関(ESA)の土星探査機カッシーニが撮影した、衛星タイタンの「ザナドゥー(Xanadu:桃源郷の意)」と呼ばれる領域の画像が公開された。そこは名前とは裏腹に、光がほとんど届かない死の世界。だが、どこか地球を思い起こさせるような風景も広がっていた。


(ザナドゥーの横断画像)

カッシーニが取得した画像。ザナドゥーを横断するように撮影した。リリース元では、主な見どころを紹介した動画も公開されている。クリックで拡大(提供:NASA/JPL)

(ザナドゥーを流れる川の画像)

ザナドゥーを流れる川。クリックで拡大(提供:NASA/JPL)

地球と共通点の多い大気を持つタイタンは、生命と関連づけられて語られることが多い(解説参照)。しかし、はるか遠くにあるタイタンに届く太陽の光はひじょうに少なく、地球と比べると極寒の天体だ。その上、炭化水素のかすみのために地表に届く光はさらに弱くなってしまう。生命が存在する可能性はほとんどないが、それでもタイタンの独特な環境は実に興味深い。

1994年、ハッブル宇宙望遠鏡が大気とかすみを見通す赤外線の目で、タイタンの地表に異常に明るい領域を見つけ、桃源郷を意味する「ザナドゥー」という名前がつけられた。10年後、今度は探査機カッシーニが直接土星とタイタンを訪れた。子機のホイヘンスが着陸するなど、タイタンに関する情報が次々と得られている。そして2006年4月30日、カッシーニがレーダーで詳細な地形を撮影し、ようやくザナドゥーの本当の姿が見えてきた。

レーダーの目でかすみをかき分け、カッシーニがかいま見た桃源郷の風景。そこは驚くほど、われわれが見慣れたものだった。周りの黒い「海」に対して白く浮かび上がる大陸のようなザナドゥー(実際にオーストラリア大陸ほどの大きさだ)は、大小さまざまな山に覆われている。やや規模の大きい山脈もあれば、隕石の衝突か氷火山の噴火でできたクレーターも見られる。そして山々の間を川が走り、ザナドゥーを囲む「海」へと注ぐ。もちろん、タイタンのような冷たい星に液体の水は存在しない。おそらくメタンだ。メタンの雨、さらにはメタンの泉がザナドゥーでは見られるかもしれない。一方、川が流れると地表を削るのは地球と同じだ。こうして削り取られた砂は、ザナドゥーの周りの「海」に流れ込む。ただし、「海」は川とは違って、液体ではない。見渡す限り砂丘の広がる、砂漠のような世界だ。

ザナドゥーの地表だけが明るい色をしているのはなぜだろうか。タイタンでは、暗いオレンジ色をした有機物のちりが空から降っていているために地表は暗くなっている。ところがザナドゥーでのみ、ちりが洗い流されているようなのだ。残された地表を構成するのは、おそらく水の氷。どうやら氷は密度がとても小さく、地下洞窟がいたるところにあるかもしれない。

タイタンで生命を謳歌する存在はいそうにない。しかし、荒涼とした砂漠から切り離されたかのような、地球に似た桃源郷はあった。

タイタン

生命が存在しているかもしれない衛星ということでは土星のタイタンにも注目が集まっている。半径は2575キロメートルと衛星としては木星の衛星ガニメデに次ぐ太陽系2番目の大きさ。冥王星、水星よりも大きいことで知られているが、注目されているのは大きいからではなく、太陽系にある衛星の中で唯一、濃い大気を持っているからだ。大気の濃さは地球の1.5倍にも達する。主成分は窒素で97%、メタンが2%含まれている。(「150のQ&Aで解き明かす 宇宙のなぞ研究室」Q.71 土星の衛星タイタンの大気って地球より濃い? より一部抜粋 [実際の紙面をご覧になれます])