X線でも輝くシュワスマン・ワハマン彗星

【2006年5月19日 NASA Mission News

地球に大接近したシュワスマン・ワハマン彗星は、その特異性と近さのおかげで、数多くの天文学者の目を釘付けにしている。そして世界中の、さらには宇宙空間に浮かぶあらゆる望遠鏡が彗星に向けられた。NASAの天文衛星、スウィフトもその1つだ。あまり例のないX線による観測で、彗星と、彗星にぶつかる太陽風の組成を分析するのが狙いである。


X線による彗星とM57の画像

X線で見たシュワスマン・ワハマン彗星のC核。画像は20秒角×20秒角。核とハローの位置が黒く縁取られているが、X線でもっとも明るく輝くのは彗星ではなく太陽風と彗星の物質が衝突する場所なので、多少ずれていることに注意。クリックで拡大(提供:NASA/Swift/XRT/U. Leicester/Richard Willingale)

紫外線による彗星とM57の画像

紫外線で見たC核。右下で藤色に輝くのは、環状星雲M57。クリックで拡大(提供:NASA/Swift/UVOT/PSU/Peter Brown)

スウィフトはガンマ線バーストの観測を主な目的とした天文衛星で、ガンマ線やX線などの電磁波を検出することにたけている。これらの電磁波は波長がひじょうに短く、エネルギーの高い反応により生じる。たとえば、ガンマ線バーストはその名のとおり大量のガンマ線を放出する爆発現象で、ひじょうに大きな超新星爆発などが原因と考えられている。また、ブラックホールに引き寄せられたガスはその過程で超高温になり、X線を発することが知られている。

そのスウィフトが、彗星からのX線を捉えたと聞いたら、意外に思われるかもしれない。1996年に、百武彗星からのX線が捉えられた時の天文学者の反応も同じようなものだった。そのメカニズムを解明するのに、5年もの歳月を要したという。

もちろん、いくら核が崩壊を続けているシュワスマン・ワハマン彗星でも、X線を発するような爆発を起こしているわけではない。X線の源は、太陽風と彗星との間でおきる「荷電交換」と呼ばれる反応だ。太陽風の中でプラスの電荷を帯びている(電子が足りない状態にある)粒子が、彗星を構成する物質(水やメタンや二酸化炭素など)から電子を奪う際にX線が飛び出るのである。静電気で火花が散るのも同じ原理だが、彗星で起きているのは、はるかにエネルギーが大きい現象なのだ。

「シュワスマン・ワハマン彗星はこれまでにない種類の彗星です。放出されているX線は、これまで明かされることのなかった知識を私たちにもたらしてくれることでしょう」と語るのは、スウィフト観測チームの一人でNASA宇宙飛行センターのScott Porter氏。Porter氏らはこれまでに、地上の実験室で様々な物質を用い荷電交換の実験を行っており、その結果とスウィフトのデータを照らし合わせることで、太陽風と彗星の組成を詳しく分析できると考えている。

ところで、シュワスマン・ワハマン彗星を観測するにあたり、スウィフトにはもう1つ強みがある。スウィフトの主なターゲットであるガンマ線バーストとその残光は、すぐに消えてしまうので、スウィフトは素早く正確に方向転換できるように設計されている。おかげで、彗星としては異例なまでに地球に近づき猛スピードで空を駆け抜けているシュワスマン・ワハマン彗星を、たやすく追いかけることができるのだ。刻一刻と姿を変える彗星を紫外線とX線で同時に観測できるスウィフトは、まるでこのために打ち上げられたのではないかと思うほどである。

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