天の川の「支流」とその「水源」

【2006年5月19日 Sloan Digital Sky Survey:(1)(2)

われわれの天の川銀河の周りには、想像以上にたくさんの伴銀河が潜んでいるが、スローン・デジタル・スカイ・サーベイ(SDSS-II)により新たに2つがリストに加わった。一方、同じくSDSS-IIで撮影された画像には、「星の筋」がたくさん写っている。天の川銀河に引き寄せられた伴銀河が、引きちぎられながら移動した痕跡だ。内部にいる私たちからは「川」に見える天の川銀河は、幾多もの伴銀河を「水源」として成長したという事実が明らかにされつつある。


2つの矮小銀河を発見

新たに見つかった2つの矮小銀河

新たに見つかった2つの矮小銀河。撮影データから、それぞれの銀河に所属する恒星のみ取り出し、実際の色と明るさを再現したCG。クリックで拡大(提供:Vasily Belokurov, SDSS-II Collaboration)

天の川銀河の周辺には、大小マゼラン雲を筆頭に数多くの矮小銀河(一般的な銀河よりも星の数が少ない銀河)が存在する。すぐ近くにあるのに暗いためまだ見つかってない「ご近所さん」を探すのは、それ自体わくわくすることだが、重要な意味を持つ。

現在広く受け入れられている銀河の形成モデルから考えると、天の川銀河の周囲を何百もの「かたまり」が公転している。こうした「かたまり」の大部分は、通常の手段では観測できない「暗黒物質」でできているが、大体「かたまり」1つの中に(光って見える)矮小銀河が1つあるはずなのだ。しかしながら、今のところ知られている天の川銀河の伴銀河は、たかだか10個程度だしかない。

そんな中、SDSS-IIの研究者で英・ケンブリッジ大学のDaniel Zucker氏が、りょうけん座の方向に矮小銀河を見つけた。太陽からの距離は約64万光年で、天の川銀河の伴銀河としてはもっとも遠いものの1つだ。

早速同僚のVasily Belokurov氏に報告したZucker氏だが、数時間後に彼から返信されてきたメールには、なんともう1つ、しかももっと暗い伴銀河の発見が記されていた。うしかい座の方向、19万光年の距離にあるこの矮小銀河は、全体で太陽の1万倍の明るさしかなく、地球から見てもっとも暗い伴銀河となった。

天の川銀河の周りを動く矮小銀河は、従来の観測では見つけることが困難だったが、あらゆる方向の星や銀河を徹底的に調べるSDSS-IIによって、天の川銀河に所属する恒星と、天の川銀河のすぐ外の矮小銀河の中で輝く恒星とを区別できるようになってきた。SDSS-IIの研究チームは、これからも発見が相次ぐだろうと自信を深めている。

今回見つかった矮小銀河には、天の川銀河の強い重力によってひきちぎられたような構造も見られた。伴銀河を見つけ、その質量や動きに加えこうした構造も分析することで、天の川銀河周辺の暗黒物質や、天の川銀河自身の質量と重力場を計算することができる。

現在も天の川銀河は矮小銀河を飲み込んでいる

Field of Streamsと名付けられた領域

全天の1/4ほどにおける、銀河の残したストリームの画像。主なものにはキャプションがついている。Zucker氏らはこの領域を(おそらく"Field of Dreams"「夢の球場」をもじって)"Field of Streams"「ストリームだらけの星野」と名付けた。クリックで拡大(提供:Vasily Belokurov, SDSS-II Collaboration)

では、天の川銀河の周りに漂う矮小銀河にはどんな運命が待ちかまえているのだろうか?

Zucker氏とBelokurov氏は、SDSS-IIが5年がかりで観測した、全天の1/4にわたる領域を分析した。撮影された恒星から天の川銀河に所属するものを取り除くと、すぐ外を走る「星の筋」が浮かび上がった。これはストリームと呼ばれるもので、天の川銀河の重力により引きちぎられながら吸い寄せられた矮小銀河が、その通り道に残した星でできている。さしずめ天の川の支流とでも言えよう。もっとも目立っているのが、「いて座ストリーム」と呼ばれるものだが、他にも数多くのストリームが写っているという。

ストリームのほとんどは、天の川銀河に吸収されてしまった矮小銀河のなごりだ。どうやら、天の川銀河は幾度となく「共食い」を重ねて現在の大きさになり、今もなお、新たな餌食を吸収しているらしい。

ところで、こうした光のストリームは、そこに見えているもの以上に、見えないものについての情報を教えてくれる。Belokurov氏は、「いて座ストリーム」の形に注目した。ストリームは1本ではなく何本かが重なっていて、衝突前に矮小銀河が天の川銀河の周りを2, 3周したことを示唆している。こうした動きに影響を及ぼすのがハロー(解説参照)の暗黒物質だ。従来の天の川銀河モデルでは、暗黒物質は銀河円盤に沿ったエリアにより多く集まっていて、横から見ると楕円形に見えると思われていたが、シミュレーションの結果ほぼ球状になっていることがわかった。

そもそも光のストリームが見えていること自体、重要だという意見もある。もし暗黒物質が、「熱い」−すなわち速く動く粒子で構成されていたなら、光のストリームはすぐに崩れてしまうはずだ。従って、銀河を取り巻く暗黒物質は「冷たい」、不活性な物質に違いないという。

銀河ハロー

銀河を球状に包み込む領域のこと。可視光で見える光学ハローは球状星団の分布域を指し、ほぼ銀河ディスクの2倍程度の大きさに広がる球状のエリアである。さらに、電波やX線観測によって、光学ハローの数倍の大きさを持つ高温ガスのハローが確認され、これをガスハローまたはX線ハローという。最近、このX線ハローの質量が銀河ディスク質量の10倍程度にも達することがわかり、この大質量の見えないハローを「ダークハロー」と呼んでいる。ダークハローには多量の褐色矮星があるとする説や、ニュートリノがあるとする説など、ダークマター問題として大きな関心を集めている。(最新デジタル宇宙大百科より)