近すぎて見えなかった…天の川銀河のごく近くに星の大集団を発見

【2006年2月2日 Huge Star Cluster Discovered in Neighborhood of Milky Way

観測技術の発達とともに、人類はより遠方の銀河を見られるようになっており、「これまでで最遠の銀河、発見」というニュースがよく話題となる。しかし、「灯台もと暗し」ということわざは天文学にも当てはまるようだ。地球からわずか3万光年の位置に、見かけの大きさが満月の5千倍もの大規模な星の集まりが見つかったのだ。天の川銀河に飲み込まれつつある矮小銀河と思われるこの天体は、その巨大さ故に今まで見逃され続けていた。ひょっとすると、「これまでで最近の銀河、発見」というニュースになるかもしれない。


発見された大星団の星の分布図

この図は天の川銀河の周辺の構造が不規則であることを示している。

地球から約10パーセクの位置にある、一定の明るさと色の恒星の数密度が色(青が少なく、赤が多い)で示されている。図の中央が天の北極方向、左が銀河中心方向で数字は銀経を示し、同心円は銀緯の線(30度間隔)である。

銀河が一様なら、上下の半円は線対称になるはずだが、銀経300度、銀緯60度の位置に異常に星の多い領域がある。これが、今回見つかった星団である。

点線はいて座矮小銀河の通り道を示す。星の多い領域と一見重なるように見えるが、いて座矮小銀河はこの図に示された恒星より4倍も遠いところを通っているので、整合性がない。

(提供:PSU)クリックで拡大

おとめ座の方向にあるこの巨大星団の中には、何世紀にも渡って望遠鏡で観測され続けてきた星も少なくない。天の川銀河に属する星にまぎれて、区別のつけようがなかったのだ。それを可能にしたのは、北半球の1/4を徹底的に観測した、スローン・デジタル・スカイサーベイ(SDSS)の膨大なデータだ。アメリカの大学を中心とした研究チームが、4800万個の恒星について距離を見積もり、天の川銀河の3次元地図を作ったところ、一見何の変哲もない領域に、10万個程度の星からなる巨大星団が浮かび上がったのである。

実は、10年ほど前にも同じような出来事があった。天の川銀河の中心方向の画像を調べたグループによって、地球から7万5千光年の近さに星の集まりが発見され、「いて座矮小銀河」と名付けられたのだ。いて座矮小銀河は、軌道に星を残しながら天の川銀河の周りを回転しており、やがて銀河面に沈んでゆく運命にある。

それから今日に至るまでの10年間、デジタルカメラによる全天規模の観測が盛んに行われるようになり、銀河系の外側に星のかたまりや、無数の筋が見つかってきた。星のかたまりの中には、天の川銀河の伴銀河もあれば、いて座矮小銀河のような伴銀河から引きちぎれたものもある。また、淡いガスや星からなる筋は、そうした星のかたまりが通った後だ。

今回見つかった星の集まりも、そうした矮小銀河の1つではないかと見られる。もしそうだとすれば、いて座矮小銀河の半分以下の距離(約3万光年)で、地球にもっとも近い銀河になる。それも、天の川銀河に飲み込まれるまでの間だが。「銀河系の外側にこんなに多くの不規則構造があるのを見るに、天の川銀河は今でも、小さな銀河を共食いして成長し続けていると思われます」と研究チームを率いる米・プリンストン大学のマリオ・ジュリック(Mario Juric)氏は語る。

取り巻きがたくさんあるのは、天の川銀河だけではない。SDSSを利用した別の研究チームによって、お隣の渦巻き銀河、アンドロメダ銀河にこれまででもっとも淡い伴天体が、2つ見つかった。少なくとも局部銀河群の中では、小規模な伴銀河は豊富に存在することを示唆している。

SDSSはもともと、遠距離銀河の位置と赤方偏移を測定し、数億光年先に至るまでの宇宙地図を作ることを目指していた。当初の目的を着々とこなしつつあるのは言うまでもないが、撮影された数々の画像に写り込んだ恒星のデータは、私たちの天の川銀河やその周辺について知る上でも貴重な手がかりとなっている。今回の発見も、そうした副産物の1つだ。

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