国立天文台などの国際協力研究チーム、光ファイバーで2つの大型望遠鏡の結合に成功

【2006年1月20日 国立天文台 アストロ・トピックス(177)

2005年6月18日、パリ天文台、カナダ-フランス-ハワイ望遠鏡(CFHT)、Keck望遠鏡、ハワイ大学、国立天文台などからなる国際協力研究チームは、ハワイのマウナケア山頂にある、85メートル離れたKeck-I望遠鏡とKeck-II望遠鏡のそれぞれの焦点で恒星の光を光ファイバーに入射し、同じ長さの光ファイバーによって地下の実験室まで伝送して取り出し、2つの光を混合して干渉させることに成 功しました。2台の大型望遠鏡を長い光ファイバーで結合した干渉実験ははじめてです。

複数の望遠鏡を離して設置し、それぞれで受けた電磁波を1ヶ所に導いて混ぜ合わせることで、巨大望遠鏡の鏡面の一部分のように機能させ、非常に高い角度分解能の観測を行う望遠鏡設備が干渉計です。現在、可視光・赤外線の波長域では、国立天文台(東京都三鷹市)にあるものを含めて、世界には大小さまざまな11もの干渉計が稼動しており、建設中・実験開発中のものや宇宙での干渉計の構想もいくつかあります。

実験開発中の干渉計のひとつが、`OHANA(オハナ)計画(注)です。マウナケア山頂にある大型望遠鏡7台(Keck-I、Keck-II、すばる、Gemini、CFHT、IRTF、UKIRT)を光ファイバーで結合し、口径800メートルの望遠鏡に相当する解像力の天体像を得る壮大な計画で、すばる望遠鏡も将来的に参加を考えています。

今回は、`OHANA計画の初期段階における最初の干渉実験として、Keck-IとKeck-IIを使って行われたもので、107 Her(ヘルクレス座107という恒星に2つの望遠鏡を向け、補償光学によりそれぞれの望遠鏡の焦点像を理論限界までシャープにして光ファイバーの端面に入射し、干渉実験室まで伝送しました。ここでは、入射した光波を一つの光波として伝送できる、シングルモードファイバーと呼ばれる中心の細いファイバーが使われています。2台のKeck望遠鏡の間隔は85メートルですが、300メートルの光ファイバーが2本用意され、将来望遠鏡の間隔が500メートル程度まで対応できる可能性が示されました。光ファイバーを使うと、望遠鏡から干渉実験室までの間にトンネルや真空パイプのような直線的な光の伝搬光路を設置する必要がなくなる一方、観測波長帯域内のどの波長で見ても2本の光ファイバーで光路長が等しくなるように特性を揃える必要があり、特にファイバーが長くなると難 しくなります。

光ファイバーから取り出された光は、天体の方向によって望遠鏡に入射するまでに生じる光路長の差を補正する迂回光路を通してから混合されます。この混合時、そこに至るまでの光の伝搬距離が等しければ強め合い、半波長違えば弱め合います。光の伝播距離の差を変化させると光が強弱を繰り返す干渉縞が現れます。干渉縞のコントラストが低下することは、干渉計の持つ高い角度分解能において、天体が点ではなく形状があることを表し、その情報を解析することで高解像の画像が得らるのです。通常は点とみなせる比較用の天体のデータで目的天体のデータを補正しますが、今回は比較用の星のデータのみ得られています。

干渉実験そのものは大成功でしたが、課題も残りました。107 Her の視直径は0.42ミリ秒角ですから、波長2マイクロメートル(μm)帯では、ほぼ点とみなせる大きさであり、干渉縞のコントラストは99パーセントであると期待されましたが、この実験の結果、25パーセントでした。ファイバーのみであれば96パーセントは達成できる特性を揃えていると考えられ、低い原因は、偏光やビームスプリッタの材質などと考えられ、これらの課題の克服が期待されます。

(注)`OHANAとは、ハワイ語で家族の意味で、Optical Hawaiian Array for Nano-radian Astronomy(ナノラジアンの天文学のためのハワイの光学干渉計)の略。
ナノラジアン=約57.3度の10億分の1=2/10000秒角で、超高角度分解能であることを示す。

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