「はやぶさ」11月12日のリハーサル降下の結果
JAXAが「はやぶさ」着陸地点の名称を公募

【2005年11月14日 宇宙航空研究開発機構 宇宙ニュース(1)宇宙航空研究開発機構 プレスリリース2005(2)宇宙科学研究本部 宇宙ニュース(3)

11月4日に中止された「はやぶさ」の小惑星イトカワへの降下リハーサルに続き、9日には航法誘導機能の確認を目的とした降下試験が実施され、さらに11月12日に再び「はやぶさ」のリハーサル降下が行われた。それぞれに詳細な分析が行われ、その成果が発表された。


11月12日のリハーサル降下結果

11月12日「はやぶさ」は、着陸・試料採取に向けた誘導航法機能の確認と、近距離レーザ距離計(LRF) の較正、および探査ロボット「ミネルバ」の投下を目的に、日本時間同日午前3時に地上からの指令で、イトカワより高度約1.4kmから降下を開始した。速度を十分に落とし、慎重に誘導した結果、降下には予想より約1時間の時間を要しつつも、最低高度点への降下時刻をNASA深宇宙追跡局網による運用時間帯に移動させた。降下の目標点はMUSES-SEA域東側へ変更された。というのも、当初はMUSES-SEA(ミューゼスの海)域に近い地点が目標とされていたが、誘導方式の制約から地球方向の直下地点とせざるを得なくなったためだ。

姿勢制御と、降下中の高度、速度の制御はおおむね順調で、最低到達高度は、レーザ高度計の指示値を換算すると約55メートルであった。「はやぶさ」は、降下に際して、表面までの距離とともに、斜め下4方向への距離を計測することにより、表面へ姿勢をならわせる操作を行うために近距離レーザ高度計(LRF)を搭載している。これについても、4ビームすべてについて、実際に小惑星表面について測定値が正しく得られ、レーザ高度計と同時に計測ができた。

なお、探査ロボット「ミネルバ」は、「はやぶさ」が「イトカワ」から所定の高度に到達したと思われた時点で、地上から切り離し指令が発信され、日本時間午後3時24分に実際の切り離しが行われ、その結果が16分後の3時40分にJAXA相模原管制センターで確認された。「ミネルバ」は、「はやぶさ」との通信が確保された状態で分離され、これは「はやぶさ」と「ミネルバ」の双方からの信号により確認された。また、「はやぶさ」搭載の障害物検出センサにより、「ミネルバ」が探査機から分離されたことも確認された。

「ミネルバ」の分離は、地上管制センターを介して行われた。このため、実際に分離されるまでの十数分間(電波による指令が実際に「はやぶさ」に届くまでの時間)に、「はやぶさ」のイトカワ上空における位置が「はやぶさ」の自律航法システムによってドリフトし、分離された時点で、高度は約200メートル近くに達していた。このため、残念ながら「ミネルバ」を「イトカワ」表面にとどめることはできなかったようだ。なお、「ミネルバ」は、その後も継続して「はやぶさ」との通信を保ち続けており、搭載機器の状況も把握されており、継続してコンタクトをとり続けている。「ミネルバ」は「イトカワ」の衛星となったか、人工惑星となって、太陽系を巡ることになるのかもしれない。

このほか、実際のMUSES-SEA域での着陸・試料採取を行うには、日本国内からは可視ではないため、NASA深宇宙追跡局網を用いる必要がある。12日の再リハーサルでは、この複数局を切り替えての運用性が実際のスケジュールの中で確認された。

なお、今後の計画の進行は、すでに発表されている通りで、11月19日に88万人の署名がプリントされたターゲットマーカを用いて第1回目の着陸と試料採取を、11月25日に第2回目の着陸と試料採取が行われることになっている。


11月4日、9日のリハーサル降下の分析結果とその成果

(放出されたターゲットマーカとイトカワの画像) (「はやぶさ」の影と近接画像、「ウーメラ域」付近から)

(上)放出されたターゲットマーカとイトカワの画像。(下左)衝(Opposition)点と「はやぶさ」の影、(下右)最低高度点付近で撮影された近接画像(「ウーメラ域」付近から。最大の岩塊の大きさが約 20m 程度)。クリックで拡大(提供:宇宙航空研究開発機構(JAXA))

11月4日のリハーサル降下では、自律航法機能の出力に異常が検知された。これは、自律航法用画像の逐次処理において、複数のオブジェクトを認識したために、「はやぶさ」搭載コンピュータの処理能力を越えたためだ。この問題については、適切な設定を行うことで対処可能であることが明らかにされた。また、3個あったリアクションホイールのうち2個を失ったことにより、化学燃焼による姿勢制御を行っている「はやぶさ」は、並進加速度の外乱を受けており、これに伴って軌道分散が非常に大きな量に達していたことも確認された。これを防ぐに「はやぶさ」の自立制御機能に加え、地上からの補助を導入する必要性が生じている。また、降下中に撮影された高精細の画像によって、着陸・試料採取の第2候補点である「ウーメラ域」が予想以上に多数の大きな岩石に覆われていることが判明し、着陸・試料採取には適当でないことも明らかになっった。

宇宙航空研究開発機構(JAXA)では、11月4日のリハーサル降下後、11月9日に航法誘導機能の確認を目的とした降下試験を実施。結果以下のような新たな成果が得られている。

  • 自律航法用画像の処理については、9日の試験では問題は発生せず、対処法が有効に機能。
  • 化学燃焼の噴射による並進加速度の外乱を補償する機能として、地上での画像を基にした補助的な航法機能をあらたに導入、有効に機能することを確認。
  • 近距離レーザ距離計についても、最低高度点付近において、その距離計測出力を確認。
  • 第2回目の降下点において、ターゲットマーカの分離を試み、正常に分離され、またフラッシュランプによる間欠撮影と、差画像によるターゲットマーカのみを抽出する画像処理機能、およびその座標情報が毎秒時適切に出力された。(なお、この9日の試験で分離されたターゲットマーカは署名入りではない。また、同マーカは、小惑星表面には投下されなかった)
  • 降下中、着陸・試料採取の第1候補点に近い領域の高精細の撮影を行うことができ、「ミューゼス海」の表面状況を確認することができた。表面には、岩石が少なからず散見され、一定のリスクが依然存在するが、同域がイトカワ上での唯一の着陸・試料採取可能な箇所であるとの判断にいたった。

「はやぶさ」着陸地点の名称公募

なお、宇宙航空研究開発機構(JAXA)では、「はやぶさ」着陸地点の名称を公募している。「はやぶさ」が試料採取のために着陸を予定している地点は、小規模地形であるため世界的に登録する名前としての命名とはならないが、日本の宇宙探査において記念すべき重要な着陸地点といえる。募集の締め切りは11月30日で、試料採取の実施状況により、12月上旬に地名が発表される予定だ。(応募は、宇宙科学研究本部 宇宙ニュース「はやぶさ」着陸地点に名前を付けてください!内の申込みフォームから)

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