すばるがとらえたガンマ線バースト母天体の横姿

【2005年5月27日 すばる望遠鏡プレスリリース

東京大学、広島大学、国立天文台などの研究者からなるグループは、すばる望遠鏡と微光天体分光撮像装置(FOCAS)を用いて、超新星「SN 2003jd」の爆発から約1年後のスペクトルを撮影することに成功した。この観測結果から、非球対称状の爆発を示す極超新星とガンマ線バーストとの関連を説明する理論モデルがより確実なものとなり、これらの現象について統一的な理解が可能となった。

(すばる望遠鏡による超新星 SN 2003jd と、その母銀河 MCG-01-59-21)

すばる望遠鏡による超新星 SN 2003jd と、その母銀河 MCG-01-59-21。クリックで拡大(提供:国立天文台)

(非球対称爆発モデルの計算結果と、観測された酸素の輝線スペクトル線とモデル計算結果との比較)

非球対称爆発モデルの計算結果(左下)と、観測された酸素の輝線スペクトル線とモデル計算結果との比較(左上および右下)。クリックで拡大(提供:国立天文台)

宇宙における爆発現象は、多くの場合球対称、つまりすべての方向に同じだけのエネルギーを放出すると考えるのが自然だ。しかし、中には球対称とはかけ離れた爆発でなければ説明できない現象が観測されている。非常に大きなエネルギーの爆発とみられるガンマ線バーストはその一つ。長年その正体は謎だったが、宇宙の遠方で起きていることがわかり、それだけのエネルギーをすべての方向に放出するのは無理があると考えられた。そこで、非対称な爆発で起きる高速ジェットがたまたま地球の方向を向いている際に、ガンマ線バーストとして観測されるのではないかと考えられるようになったのだ。

国立天文台及び東京大学などからなる研究グループにより、ガンマ線バーストの正体、そして爆発の非対称性の謎に迫るような観測が相次いだ。2003年にはガンマ線バーストと極超新星(通常の超新星の10倍以上のエネルギーを放出する爆発)が同じ時刻に同じ方向で観測された(2003/6/18の記事参照)。さらに、2002年に現れた極超新星「SN 2002ap」のすばる望遠鏡による観測からは高速ジェットの存在を示唆するような結果が得られている。

これらの観測を元に、極(回転軸)方向に高速ジェットを放出するような超新星爆発モデルが提唱された。モデルからは、このような爆発の際には酸素など、比較的軽い元素は赤道方向に放出されやすいことが予測される。つまり、極(回転軸)方向から極超新星を観測すればエネルギーの大きい、高速ジェットがガンマ線バーストとして見えるが、赤道方向からは見えないのだ。その代わり、ドーナツ状に広がる酸素などの元素が観測されるが、ドップラー効果によりわれわれへ近づく酸素はより青く、遠ざかる酸素はより赤く見える。すなわち、二つの波長でピークが見られるというわけだ。

今回観測されたのは超新星「SN 2003jd」で、その爆発の様子から極超新星であることがわかっていた。爆発から一年経ち、放出された物質が十分広がりその内部が見通せるようになったときに観測したところ、酸素が放射するスペクトルに二つのピークがあることが確かめられた。SN 2003jdに伴うガンマ線バーストは観測されていない。まさに予測通りの結果となったのだ。

今回のすばるの発見は世界で初めての成果であり、非球対称状爆発を示す極超新星とガンマ線バーストの関連を説明する理論モデルが、より確実なものとなった。