すばる望遠鏡、太陽系外縁部の天体表面に結晶の氷を発見

【2005年1月5日 国立天文台 アストロ・トピックス(71)

冥王星を含めた太陽系の外縁部には、1992年以来、数多くの小天体が発見されています。これらはエッジワース・カイパー・ベルト天体と呼ばれ、短周期彗星の故郷として、あるいは惑星になりきれなかった微惑星の残骸として重要視されています。しかしながら、これらの小天体はひじょうに遠方にあるために、天体の構造や表面の組成を調べるのは、なかなか困難でした。

そんな中、すばる望遠鏡がまたひとつ成果を上げました。エッジワース・カイパー・ベルト天体の一つ、クワーオワー(50000 Quaoar)の表面に結晶状態の氷を発見したのです。クワーオワーは、2002年に発見されたエッジワース・カイパー・ベルト天体の中では最大級の天体のひとつです(国立天文台・天文ニュース 589)。今回の氷の発見を成し遂げたのは、ハワイ大学のジューイット(David Jewitt)とマサチューセッツ工科大学リンカーン研究所のルー(Jane Luu)です。彼らはすばる望遠鏡の近赤外線カメラ(CISCO)を使って、このクワーオワーの赤外線のスペクトルの観測に成功しました。そのスペクトルに結晶質の氷の存在を見いだしました。

エッジワース・カイパー・ベルト領域は、太陽から遠いために、その表面温度はマイナス220度ときわめて低く、これまでは表面の水は結晶構造を持たない氷として存在すると思われていました。結晶質の氷はマイナス160度以上にならないと形成されないからです。約45億年の太陽系の年齢に比べ、結晶の氷の寿命はひじょうに短いことから、クワーオワーの表面温度が高くなる、なんらかのメカニズムが今なお続いていることになります。

ハワイ大学に滞在し、ジューイットと彗星の共同研究をした渡部潤一(わたなべじゅんいち)国立天文台助教授は「クワーオワーの表面に結晶質の氷が存在することは驚きで、その形成メカニズムを考える必要がある。すばる望遠鏡では、彗星から放出された氷を直接観測するのに成功している(国立天文台 アスト・トピックス 4)が、それは結晶質ではない氷だった。その意味で今回の発見が結晶質であったのは、とても興味深い」と、述べています。いずれにしろ、今回の発見は、すばる望遠鏡が高い性能を生かした成果であるといえるでしょう。