ハッブル宇宙望遠鏡の5倍の分解能を持つインターネット望遠鏡「e-VLBI」が登場

【2004年10月20日 Jodrell Bank Observatory Press Release

ヨーロッパとアメリカの電波天文学者が、インターネットを通じた新しい天体観測方法をスタートさせた。コンピュータ・ネットワークでつながった、いわば巨大仮想電波望遠鏡といったもので、その分解能はハッブル宇宙望遠鏡の約5倍になるという。

(IRC+10420の電波画像)

IRC+10420のシェル構造のメーザー放射を捉えた画像。(右)メルリン電波干渉計による画像、(左)e-VLBIによるメーザーの構造。ズームレンズ効果でより細かい構造が捉えられている。クリックで拡大(提供:Merlin Radio Telescope Array, EVN)

この画期的な観測技術は「e-VLBI」と呼ばれている。観測を行ったのは、ヨーロッパVLBIネットワーク(EVN:European VLBI Network)に参加するイギリス、スウェーデン、オランダ、ポーランド、プエルトリコの電波望遠鏡だ。このe-VLBIの分解能は20ミリ秒角以上で、ハッブル宇宙望遠鏡の約5倍、ちょうど地球から月面に建つ小さなビルを見分けられるくらいの性能に相当する。また、プエルトリコ・アレシボの電波望遠鏡が参加することで、その感度も10倍になる。実際、捉えられた電波の強さは、通常の携帯電話の10億分の10億分の1程度とひじょうにかすかなものなのだ。

今回観測ターゲットとなったのは、IRC+10420という太陽の10倍の質量を持つ巨星で、われわれから1500光年離れたわし座にある。赤外線ではひじょうに明るく輝いているが、その姿は厚いちりのシェル構造に覆われており、星の表面からは1年間に地球の質量の200倍程度のガスが放出されている。今回の観測では、分子からの強いメーザー放射を捉えることで、この天体の姿が浮かび上がってきた。また、ガスの固まりも捉えられており、ここでは特殊な条件のもと、電波放射が増幅されていることも明らかにされた。

e-VLBIのおかげで、驚くほど詳細な天体の姿が捉えられされ、ガスの固まりが移動するようすや、数週間から数か月で消えては現れるメーザー、さらに磁場の変化の研究も可能となった。ガスは毎秒40kmで運動しており、およそ900年前にこの星から放出されたもののようだ。IRC+10420は、急速に一生の最期の瞬間に向かって進化し続けていると考えられており、近い将来(明日かもしれないし数千年後かもしれない)超新星爆発を起こすだろう。e-VLBIは、今後もこの星の変化を捉え続けることになっている。ネットワーク技術やe-VLBIの性能がさらに新歩する数年後には、もっといろいろな現象について驚くほど詳細に捉えられるようになるはずである。

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