紀元536年に起こった彗星衝突?

【2004年2月20日 国立天文台・天文ニュース(701)

天体衝突によって気象異変が起きることは、かなり以前から指摘されてきましたが、紀元(=西暦)536年から約10年に渡って起きた地球全体の寒冷化が、彗星の衝突によるものだとの新説が登場しました。

木の年輪を調べると、その成長速度の差が分ります。その差は主に気温に依存しています。536年からの10年間は気温が低下したことが、世界各地の年輪測定からわかっています。しかも、平均で3度も下がったといわれているほどで、536年は、この2000年の間でもっとも気温の低い年だったようです。

また、古記録によれば、この時期には空の透明度も悪く、地中海では「乾いた霧」が立ちこめ、太陽が月のように輝きを弱めたとの記述もあります。

これらの気象異変は、大規模な森林火災ではないか、あるいは大規模な火山の噴火によるものではないか、といわれてきました。それは、天体衝突の場合に生じる隕石孔が見つかっていないからです。

しかし、イギリス・カーディフ大学のリグバイ(E. Rigby)らは、この現象がクレーターを作らないような小粒の彗星の衝突によって説明できるという研究結果を発表しました。小さな天体だと、地上に達する前に、上空で大爆発を起こします。すると、エアーバーストという強烈な爆風が衝突地点付近を襲って、かなりの面積を焼き払います。その代わりにクレーターはできません。年輪を調べると、どうやらその衝突地点はヨーロッパ北部であったようです。同時に、その爆風と共に彗星に含まれている塵などが大きなきのこ雲となって大気圏を越えて広がります。これらは冷えると再び地球に落下しますから、塵が地球全体を覆ってしまい、太陽光線を遮断する役目をして、地球が冷えてしまうわけです。

1908年にロシア・シベリアのツングースで起きた現象も、同じように小さな天体だったため、クレーターは作らず、上空で大爆発を起こしました。爆風によって、地上のかなりの面積が焼けこげ、同時に数日間にわたって夜が明るかったといいます。これは大気の上層に塵がばらまかれたせいだといわれています。

リグバイらの計算によれば、衝突してきた彗星の大きさは半径300メートル程度で、彗星としてはかなり小粒です。実はこのころ、おうし座流星群の母天体である大きな彗星が分裂したという研究結果もあります。その分裂破片のひとつが地球に衝突したのかもしれない、とも述べています。

いずれにしろ、 紀元536年に何が起きたのか、今後もさらに研究が続くことでしょう。