90万トンもの炭素を含んだ彗星の尾

【2004年1月20日 CfA Press Release

ハーバード・スミソニアン天体物理センターの専門家が水星軌道の半分ほどの距離まで太陽に近づいた工藤・藤川彗星(C/2002 X5)について調べたところ、彗星の尾に大量の炭素が含まれていることがわかった。炭素といえば生命にとってなくてはならない重要な元素であり、生命の起源にも迫る観測結果となるかもしれない。

(SOHOに捉えられた工藤・藤川彗星の画像)

SOHOに捉えられた工藤・藤川彗星(白線の途切れている部分)。青い部分がUVCSによるデータを可視化したもので、尾に当たる赤い部分が炭素の存在を示している(提供:M.S. Povich and the SOHO/UVCS, SOHO/EIT, and SOHO/LASCO image teams, NASA/ESA.)

今回の観測と研究は、NASAESA(ヨーロッパ宇宙機関)が共同運営する太陽観測衛星SOHOに搭載された紫外線コロナグラフ分光計(UVCS: Ultraviolet Coronagraph Spectrometer)によるものである。彗星の尾をスライス状に捉えたものをつなぎあわせ、2次元画像につくりかえて詳細を明らかにした。

驚かされるのは、その炭素の量だ。尾の部分だけで90万トンものイオン化した炭素を含んでいるが、これは巨大タンカー5台分に匹敵する。この大量の炭素が、彗星の運動とともに太陽系内に撒き散らされ、生命の源となった可能性がある。また、太陽の熱によってかなりの水蒸気も発していることもわかった。

さらに、関連の観測結果から、あらゆる年齢の恒星が彗星を従えているらしいこともわかった。もし、がか座β星のような形成後間もない星々も彗星を従えており、その彗星が今回観測されたような太陽系内の彗星と同様のものであるならば、その恒星にも惑星系があることが示唆され、生命を形作る物質が宇宙においてありふれたものであるという説も現実味を帯びてくる。

太陽系内の彗星を観測、研究することは、私たちを含む生命の起源に迫る情報を得るだけでなく、太陽系外の惑星や彗星の存在を発見し、その実態に迫れるかも知れないという重要なステップであるといえるだろう。