銀河団の得は銀河の損

【2003年10月7日 Chandra Photo Album

NASAの衛星チャンドラのX線での観測とパロマー山天文台の可視光での観測により、おとめ座銀河団の銀河M86から20万光年以上にわたってガスがのびているようすが明らかになった。

(M86の画像)

M86。青はX線観測によるもの、オレンジは可視光観測によるもの。右上のほうにガスがのびている(提供:X線:NASA/CXC/SAO/C. Jones, W. Forman & S. Murray、可視光:パロマー山天文台DSS)

このガスは初めは銀河に付随していたものだが、時速500万キロメートルという超高速で銀河団に広がる希薄なガスの中を運動しているうちに圧力を受けて銀河からはがされ、のびた構造となったものである。

銀河は、銀河団に含まれるダークマター(暗黒物質)や高温のガス、他の無数の銀河から重力の影響を受けて銀河団に強く引っ張られている。銀河団へと銀河が落ち込んでいくようすは、まさに数十億年かけて銀河団が形成されつつある現場を見ていることになる。こうして捕らえられ銀河団の中を運動するようになった銀河は、M86のようにガスを剥ぎ取られてしまう。そして、銀河から失われた分が、そのまま銀河団全体のガスと混ざっていくというわけだ。

M86のもう一つのおもしろい特徴は、この銀河が我々と近づきつつあるということだ。一般的に遠方の銀河は、宇宙膨張の影響で我々から遠ざかるように運動している。しかしM86の場合、おとめ座銀河団(これ自体は時速約300万キロメートルで遠ざかっている)の向こう側からおとめ座銀河団の中心部へ向かって落ち込んでいる。先に述べたようにこの速度は時速約500万キロメートルなので、結果的におよそ時速150万キロメートルで我々に近づいているように見えるのだ。