子どもたちの提案による小惑星「しじみ」、誕生

【2003年5月1日 国立天文台天文ニュース(634)

去る3月に発表された国際天文学連合・小惑星回報第48160号にて、昨年度に申請された小惑星(29431)Shijimiが正式に承認され、命名されたことが公表されました。

小惑星(29431)Shijimiは、2002年の宇宙の日にちなみ、島根県・松江市で開催された「『宇宙の日』ふれあいフェスティバル2002」の会場において、事前に公募した小惑星の名前の候補の中から、子どもたちの拍手により選出されたものです。小惑星の名前の候補として、事前に35の案が寄せられましたが、これを実行委員会で5つに絞り込みました。そして、ふれあいフェスティバルの当日、古川聡宇宙飛行士のトークショーに来場した参加者に拍手をしてもらい、最も多かった「しじみ」を提案することが決まったのです。

この小惑星は、もともと地元・島根県八束(やつか)町のアマチュア天文家・安部裕史(あべひろし)氏によって1997年4月に発見されたものです。こどもたちが宇宙への興味を持つきっかけになるよう、星に名前をつけるような取り組みができないか、という宇宙の日主催者会議の要望を受けての企画でしたが、安部氏に特別にご協力いただきました。当日は、安部氏にも会場に来ていただき、小惑星の発見に関する思いを語っていただきました。命名提案権そのものは委譲できませんので、『宇宙の日』ふれあいフェスティバル2002でこどもたちが選んだ「しじみ」を、その経緯を添えて国際天文学連合に提案してもらいました。

小惑星の発見・命名数は飛躍的に増えていますので、実際に承認されるまで時間がかかりました。いずれにしろ、2001年大阪の宇宙ふれあい塾で選ばれ、命名された「たこやき」(天文ニュース(550))に次いで、地元の名産が小惑星として誕生したことになります。発見者の安部さんは「今回の命名をきっかけに、新しい星を発見するなど、小さい頃に夢見たことをいつまでも忘れず、実現に向けて追いかけてほしい」と述べています。

国際天文学連合副会長も務める海部宣男(かいふのりお)国立天文台長は、「国際天文学連合では命名提案権が乱用されないよう注意を促しているが、今回のようにこどもたちに楽しい夢を提供するのは、昨年の「たこやき」同様、発見者にとってもうれしいのでは」と述べています。また主催者の一人である内田勇夫(うちだいさお)日本宇宙フォーラム理事長は「参加してくれた子どもたちが主体的になれる新しい試みで、今後もぜひ続けられればよい」と話しています。

現在、この小惑星は、地球から約3億5千万キロメートルの距離にあり、ふたご座で19等星で輝いています。望遠鏡でも直接見るのは難しい淡い星ですが、そこには子どもたちの宇宙への夢がきらきらと輝いているにちがいありません。

宇宙の日:毛利衛宇宙飛行士が初めて宇宙を飛んだ日(9月12日)にちなんで制定されたものです。毎年、この日の前後に記念事業として、作文や絵画コンテスト、および宇宙ふれあいフェスティバルなどのイベントを行っています。文部科学省、宇宙開発事業団、宇宙科学研究所などの主催でしたが、2001年からは国立天文台も主催者に加わっています。