銀河中心ブラックホールが大量の物質を吹き飛ばす

このエントリーをはてなブックマークに追加
米大学の研究チームが23.5億光年彼方の銀河をX線天文衛星「すざく」などで観測し、銀河中心の巨大質量ブラックホールからの強い放射圧が、銀河スケールでの大量の物質流出を引き起こす原因であることを初めて示した。

【2015年3月27日 JAXA

天の川銀河の比較的近くにある銀河の中には、1年間に太陽1000個分もの質量のガスや塵を銀河の中心から宇宙空間へ放出しているものがある。この大量の物質流出がどうして起こっているのかは長年の疑問だった。

銀河「IRAS F11119+3257」
おおぐま座の銀河「IRAS F11119+3257」(提供:NASA/SDSS/S. Veilleux)

米・メリーランド大学のFrancesco Tombesiさんらは、23.5億光年彼方の銀河における「活動銀河核風」と「銀河スケールでの物質流出」を観測し、物質流出が銀河核風により起こっていることを示した。

研究対象となったおおぐま座の銀河「IRAS F11119+3257」は、活動銀河核を持つこと、また活発に星を生み出していることが知られている。「活動銀河核」とは、銀河の中心にある超巨大ブラックホールが周囲にある大量の物質を飲み込むことによって、その近辺からX線や可視光などの強い電磁波を放つ天体だ。

超巨大ブラックホール周辺のようす
超巨大ブラックホールの周辺では重力で集められた物質同士の摩擦で高温となり、強烈な電磁波が放射される。その放射圧によって物質が押し出され、周囲の物質とぶつかったところで活発な星形成活動が起こっていると考えられる(提供:JAXA。以下同)

研究では、活動銀河核からの電磁波による強力な放射圧(注)が銀河中心から物質を押し出す「活動銀河核風」をX線天文衛星「すざく」で観測。また欧州の赤外線宇宙望遠鏡「ハーシェル」では、銀河スケールでの物質の流出を観測した。その結果、活動銀河核風のエネルギーは物質流出を起こすのにじゅうぶんであることがわかった。1つの銀河で活動銀河核風と物質流出の両方が観測されたのはこれが初めてのことで、これらに関連性があるという証拠も初めて示された。

銀河スケールの物質の流出は銀河核風ではなく活発な星形成活動によって起こるという仮説もあるが、星形成活動だけではエネルギーが足りず、観測結果を説明できなかった。

「この銀河は2つの銀河同士が衝突して1つの銀河になろうとしているところなのです。銀河同士の衝突が引き金となって中心の巨大ブラックホールへ大量の物質が送り込まれ、ブラックホールが活発になって巨大なエネルギーが放射され、その結果として銀河スケールの物質流出が起こっているのだと考えられます」(同大学のSylvain Veilleuxさん)。

シミュレーションによれば、このような銀河はやがて中心付近のガスや塵が散逸し、埋もれていた活動銀河核の光が輝き出す「クエーサー」に進化することが示唆されている。

活動銀河核の進化
銀河中心部で星間物質に埋もれた活動銀河核がクエーサーとして輝くまでの進化の予測図。クリックで拡大

  • 注:「放射圧」 可視光やX線などの電磁波が物を押す圧力。太陽系天体の軌道をわずかに変化させる太陽光圧も、放射圧の一種。

関連記事