ハッブルがとらえた球状星団M15の中心部

【2000年8月8日 STScI-PRC00-25 (2000/8/3)

NASAのハッブル宇宙望遠鏡(HST)がとらえた球状星団「M15」の中心部の画像が公開された。

NASAのハッブル宇宙望遠鏡(HST)がとらえた球状星団「M15」の中心部

「球状星団」は、数万〜数十万個もの老齢の恒星が、球状に集まった天体であり、銀河を広く球状に取り巻く「銀河ハロー」と呼ばれる領域に散在している。我々の銀河系には150個ほどの球状星団が知られており、「M15」もその一つ。「ペガスス座」の方向およそ4万光年に位置する。

HSTの広視野/惑星カメラ2(WFPC2)により撮影されたこの画像では、ハッブル・ヘリテージ・チーム[*]により、恒星の本来の色を再現しようとする試みが行なわれている。星団の中で特に明るい恒星たちは、赤色巨星だ。我々の太陽より低温で、オレンジ色に輝いている。多数の淡い恒星は、高温のため青白色に輝いている。なお、ハッブル・ヘリテージ・プロジェクトとは、全人類の遺産(ヘリテージ)としてふさわしいHSTが撮影した数々の美しい天体画像を後世のために残そうというプロジェクトだ。

左上に見えるピンク色の天体は、死にゆく恒星を取り巻くガス雲であり、惑星状星雲「Kuestner 648(K648)」として知られる。4千年ほど前に形成されたと考えられる。これは、球状星団内に発見された初めての惑星状星雲だ。1928年にF.G.Pease氏により発見された。彼がカリフォルニア州のウィルソン山天文台の100インチ(約2.5m)望遠鏡で、この天体のスペクトルを撮影したとき、ガスによる強い輝線がみられたため、この天体が惑星状星雲であることが判明した。現在までに球状星団内に発見された惑星状星雲はこれを含め4個に過ぎない。

M15を含む銀河系内の球状星団を構成するのは、およそ120億年ほど前に生まれた老齢の星たちだ。これらは、銀河系内で誕生した第1世代の星たちなのである。比較のために述べると、我々の太陽は46億歳であり、ずっと若い。太陽もやがては膨らんで赤色巨星となり、その後外層部が放出され、放出された外層部が惑星状星雲を形成する。外層を失って残された核は白色矮星と呼ばれる。恒星の輝きのエネルギー源は、水素原子同士の核融合反応であるが、白色矮星は水素を使い果たしてしまっており、余熱で輝いているに過ぎない。あとは徐々に冷え、輝きを失っていく。

ところで、我々の太陽より小さな質量の恒星の場合、恒星の進化は非常に緩やかに行なわれるため、はっきりとした惑星状星雲は形成されないといわれる。しかし、M15に含まれる恒星は、最も重いものでも我々の太陽の80%程度の質量に過ぎない。M15になぜ惑星状星雲K648が存在しているのかは、謎だ。ひとつの推測として、K648を生み出した恒星が、近くの伴星からいくらかの質量を吸収した可能性が指摘されていた。その可能性を検証するために今回のHSTによる観測が行なわれたのだが、伴星は発見できなかった。謎は依然、未解決のままだ。もうひとつの推測として、K648を作り出した恒星はもともとは2つの恒星であり、それが1つに融合し、やがてK648を形成した可能性が指摘されている。


画像提供:  NASA / ハッブル・ヘリテージ・チーム