HSTの観測により「失われた水素」の存在が確認された

【2000年5月8日 HST NEWS PRESS RELEASE NO.: STScI-PR00-18 (2000/5/3)

天文学者たちは過去10年間にわたって「失われた水素」の存在を捜し求めてきたが、NASAのハッブル宇宙望遠鏡の観測によりその存在が確認された。

現在の理論によると、宇宙を構成する物質のうち、90%以上は「ダーク・マター」と呼ばれる直接検出不能な物質であり、残りの10%が我々人間や地球や太陽を作っている「通常の」物質であると考えられる。しかし、無数の銀河を構成する「通常の」物質の全質量を合わせても、予想される「通常の」物質の全質量のうち半分にしかならない。残りの半分は、「失われた水素(Missing Hydrogen)」であると考えられてきた。

「失われた水素」は、ビッグバンの時に生成され、現在は銀河間に広がる虚空の宇宙空間を漂っている希薄な水素ガス。近年のスーパー・コンピュータを用いた研究により、銀河間に鎖状に分布し、鎖に沿って流れる間に互いに衝突を繰り返して高温になっていると予測されていた。

今回の観測で用いられた方法は、遠方のクエーサーを「サーチライト」として使用し、そのスペクトルを分析し、銀河間に存在するガスの影響によるスペクトルの変化を検出するというもの。

しかし、「失われた水素」は高温のため完全にイオン化されて電子を全て失っているため、通過する光のスペクトルに影響を与えず、この方法でも直接検出することはできない。だが、このような水素ガスの中には微量の酸素も混じっており、同じようにイオン化されているが、水素とは異なり、電子を完全には失わない。そしてこのような酸素の存在は、そこを通過する光のスペクトルに影響を与える。また逆にこのような酸素の存在は「失われた水素」の存在を示す。

今回の観測はこの酸素の検出を目的としたもので、それは成功した。

今回の成功は宇宙の大規模構造に新たな光をなげかけるものであり、また現在の宇宙理論の正しさを証明するものだ。