MPLの失敗は単純な設計ミス?

【2000年2月17日 SpaceDaily (2000/2/16)

マーズ・ポーラー・ランダー(MPL)の失敗原因調査の結果、その設計に致命的な欠陥があったことが判明した。これは昨年12月3日にMPLが火星南極地方に降下後消息を絶った原因として最も考えうるものだ。

スペースデイリーが得た情報によると、この欠陥はきわめて単純なもので、ランダーが接地した瞬間にエンジンをカットするための機構の問題という。

ランダーがきわめて高速で火星大気に突入したあとの手順は次のとおりだ。

火星表面から7.3kmの高度に達したとき、ランダーはまだ約毎秒1.5kmという高速で運動しており、この時点でランダーは減速のため幅8.4mのパラシュートを展開する。これにより、ランダーはかなり減速されるが、火星大気は薄いために毎秒80m以下には減速できない。

パラシュートの展開から7秒後、大気圏への高速突入の摩擦熱からランダーを守る耐熱シールドが投棄される。さらにその16秒後、耐熱シールドの内側に折りたたまれていたランダーの3本の着陸脚が下ろされ、所定の位置に固定される。

地表から1,800m、毎秒80mで降下中にパラシュートが切り離され、その0.5秒後、3つの着陸制動用エンジンが点火される。この噴射は着陸用レーダーからのデータに基づいて調整されながら続けられ、ランダーは最終的には毎秒2.4mで緩やかに降下してゆく。

アメリカの以前の月面(ルナー・サーベイヤー)および火星(バイキング)軟着陸機は、レーダーにより地表から3〜4mに達した事がわかると制動噴射をカットするようになっていた。しかし今回のMPLにおいては、NASAジェット推進研究所(JPL)はより単純な方法をとった。3本のショック吸収脚のどれかが接地の衝撃を受けて収縮し始めたことを感知することによりエンジンをカットするというものだ。

スペースデイリーが得た情報によると、着陸時には次のようなことが起こりうるという。ランダーが耐熱シールドを投棄後、着陸脚を所定の位置に固定するために振り下ろす際に、着陸脚の伸縮可能部分がわずかに縮むぐらいの反動がかかり、その瞬間に接地探知スイッチが感知してしまい、ランダーのコンピュータが着陸したと、誤認してしまうのである。

この問題は、失敗原因調査におけるテストにおいて判明したものだが、ランダーの打ち上げ前テストでは洗い出すことができなかった。なぜなら、着陸脚を下ろす動作のテストと、着陸脚を下ろした後のランダーの動作のテストが別チームにより行われていたからだ。

まず、最初のチームが、着陸脚が下ろされた瞬間に接地感知スイッチが感知されコンピュータが着陸したと誤認してしまっていることに気づかなかった。そして次のチームが自分たちが担当するテストをはじめる前にコンピュータのメモリーをリセットしたため、その前の段階においてコンピュータが着陸したと誤認した事実が消滅してしまったのだ。

実際の火星着陸ミッションにおいては、ランダーがパラシュートを切り離して着陸制動エンジンを点火した直後、コンピュータはすでに着陸したものと判断し、すぐにエンジンはカットされてしまう。そして1,800mの上空から火星の地表に向けランダーは自由落下していったのである。

スペースデイリーが得た情報よると、この問題は失敗原因調査で行ったテストでは何度も再現されているため、ランダーの複合的なものではない単一の失敗原因としては最も考えうるものという。

もちろん、実際の着陸時にこの問題が発生せず、他の原因によって失敗したという可能性もありうる。たとえば、着陸地点の地形が荒いものであったとか、着陸制動噴射が不安定だったとかいったケースも否定できない。1993年のマーズ・オブザーバーの失敗原因調査においては、単一の原因としてありうるケースとして、推進剤の伝達パイプへ酸化剤が流出した可能性が指摘されたものの、いくつかの他の原因も考えられている。

いずれのケースにせよ、今回のMPLの失敗原因調査でわかったさまざまなことは、将来の火星着陸機の改良に役立てられるだろう。マーズ・オブザーバーの失敗原因調査でわかったことが、その後の探査機の設計に役立てられたように…。

たとえば、今回MPLには噴射の間隔を調整することによって降下速度を調節する着陸エンジンが初めて搭載されていた。しかしこの方式は振動の発生を招き、この降下制動の振動が着陸機を不安定にする恐れがあるため、今後の着陸機はそれ以前のように推力をなめらかに変更することができるエンジンを再び採用することになるかもしれない。

また、将来のすべての火星着陸機は、着陸地点の荒れた地形や急勾配の斜面を探知し、エンジンの推力を調節して不適な地形への着陸を回避する障害物回避システムを搭載することになるかもしれない。

スペースデイリーはJPLの関係者から、MPLの失敗以前から2003年の火星着陸機においてそのような障害物回避システムをテストする計画があったと聞いている。この火星着陸機は、火星表面の物質サンプルを地球に持ち帰るために設計されたずっと大きくて複雑な着陸機の第1号だ。

この障害物回避システムは着陸地点の立体図を得るためにレーザー高度計を使用するものになると思われるが、2003年の火星着陸機においては単に信頼性テストのために搭載されるのであり、着陸制御には使われない。このテストで正常に動作することが確認されれば、2005年に予定されている火星着陸機の自動着陸制御システムに実際に組み込まれることになる。

MPLの失敗原因調査の最終報告は17日に正式公開されることになるが、同じ日、NASAの長官のDan Goldin氏がその日の委員会の前に会見を持つ予定になっている。その時に氏はアメリカの将来の火星計画についての質問を受けることになるだろう。ただし、それ以前の委員会で詳述された火星計画においての変更点は、3月まで公式には報告されないことになっている。

スペースデイリーが得た情報によると、Goldin氏は火星計画の「火星マイクロミッション(Mars Micromissions)」の分野における大きな拡張を申請するように圧力をかけられているという。火星マイクロミッションは、ヨーロッパのAriane 5型ロケットが地球静止軌道に商用通信衛星を打ち上げるときに、小型低コストの火星向け人工衛星を便乗させようというミッションで、各種の探査機のほか、火星における衛星通信網の構築も含まれる。