星の一生を一望するスナップショット

【1999年6月1日 Space Science Update (NASA, STScI)

一枚のスナップショットで星の一生を一望できたら...。そんな願いをかなえてくれる美しい画像が公開された。ハッブルスペース望遠鏡が今年3月5日に撮影した銀河系内星雲NGC3603の画像である。この星雲は太陽系からおよそ2万光年のかなたにある。

NGC3603

右上に見える暗い泡状の雲(矢印1)はボーク胞子(Bok globules)と呼ばれており、この暗黒星雲の中で星の形成の初期段階がはじまると考えられている。

中央やや左下(矢印2)には、コンパクトでおたまじゃくしのような形をしたオレンジ色の輝線星雲が二つある。これと同じ天体は、ハッブルスペース望遠鏡によってオリオン座大星雲の中にも見つかっている。この星雲はおそらく、原始星の降着円盤からガスやダストが蒸発することによって輝いていると解釈されている。NGC 3603の原始星降着円盤は、オリオン座で見つかっているものにくらべてそのサイズが5〜10倍も大きく、質量もまたそれに応じて大きいものと思われる。

画面中央付近には、いわゆるスターバースト・クラスターと呼ばれる星の一団がある。この星団を構成する星はいずれもまだ若く高温で、ウォルフ・ライエ・スターとよばれる早期O型星に属する。これらの星からの電離放射や高速で流れ出す星間風は、星団のまわりに広がる低密度の外部空間に向けて流れ出している。

NGC3603

これらの電離放射が、冷たい水素の分子雲と衝突しているという証拠が、星団の右側にみえる巨大なガスの柱(シャープな境界で明るく光っている領域)である。この巨大柱の形成プロセスは、わし星雲として知られるM16の中にみられる柱構造(右画像)と同様であると考えられている。

画面の中央やや左上には、Sher 25と呼ばれる青色超巨星がある(矢印3)。この星のまわりにはきれいな形をしたリングが確認できる。これは1987年、大マゼラン雲にあらわれた超新星1987Aのまわりに見られたものとそっくりな形をしている。灰色〜青色をしたリング、そしてこれに垂直な方向に吹き出している双極流(星の右上、左下にみえるガス塊)は、この星が進化の最終段階にさしかかっており、その終焉プロセスがまさに進行していることを示すものである。

巨大質量星からの双極流によるガスと、画面右側にひろがる巨大な星間ガスとを比べると、その色が明らかに異なっているのがわかる。この違いは、ガスの中に含まれる重原子の量が異なっていることを視覚的にあらわしているものである。

ボーク胞子から始まり、外部星間ガスとの衝突による巨大ガス柱の形成、そして若いスターバースト・クラスターが誕生し、その中で個々の星は大質量星となり進化していく。最期に、青色超巨星の周りをとりまくリングや双極流はこれらの星の終焉を意味している。このように、この一枚の写真の中には、見事なまでに星の一生が描き出されているのである。

参照:ニュースソース
STScI-PRC99-20, Jun 1, 1999 プレスリリース

参照:ハッブルスペース望遠鏡最新画像のページ
http://oposite.stsci.edu/pubinfo/pr/1999