スターリンク衛星の日除け効果を検証

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全国各地の望遠鏡が連携して、日除けを搭載した人工衛星「バイザーサット」を観測した。従来のスターリンク衛星に比べて太陽光反射は抑えられていたが、依然として航跡が明るく写るなど、天文観測への影響は残る。

【2023年4月27日 東京大学天文学教育研究センター

米・スペースX社は大量の小型衛星による高速インターネット接続サービス「スターリンク」を世界各地で提供している。この通信網を実現するため、2019年5月以来これまでに4000機を超える衛星が打ち上げられてきた。

スターリンク衛星は高度550kmの低軌道へと大量に投入されているため、衛星が反射する太陽光が天文観測や景観に多大な影響を及ぼす可能性があるとして、国際天文学連合などが懸念を示している。そこでスペースXは黒色塗装を施した試験機「ダークサット(DarkSat)」を打ち上げた。通常のスターリンク衛星と比べ太陽光の反射率は抑えられたが、波長が長くなると効果が薄くなるなど、課題が残った(参照:「黒色塗料による人工衛星の減光、むりかぶし望遠鏡で検証」)。

ダークサットとは別に、人工衛星本体に日除けを取り付けて太陽光反射を軽減する「バイザーサット(VisorSat)」も開発された。2020年6月以来、数百機のバイザーサットが打ち上げられているが、このバイザーサットに関して、可視光線以外での明るさの測定はあまり行われていなかった。

スターリンク衛星、ダークサット、バイザーサット
(左)アンテナ部分が白く塗装されている従来のスターリンク衛星と、アンテナ部分が黒く塗装されているダークサット。(右)バイザーサットでは(矢印で示した部分)日除けが搭載されている(提供:SpaceX)

東京大学の堀内貴史さんたちの研究チームは、日本の大学と国立天文台の観測ネットワーク「光・赤外線天文学大学間連携(OISTER)」により、紫外線から赤外線までの広い波長帯でバイザーサットと通常のスターリンクを観測し、その明るさを比較した。観測は、国立天文台石垣島天文台のむりかぶし望遠鏡(可視光線・近赤外3色同時撮影)、広島大学のかなた望遠鏡(可視光線・近赤外2色同時撮影)、兵庫県立大学のなゆた望遠鏡(近赤外3色同時撮影)、京都大学の40cm望遠鏡(可視光線)、埼玉大学のSaCRA望遠鏡(可視光線・近赤外3色同時撮影)、東京工業大学の明野50cm望遠鏡(可視光線・近赤外3色同時撮影)、北海道大学のピリカ望遠鏡(紫外線)によって実施され、人工衛星の航跡データを得た。

バイザーサットと通常スターリンク衛星の航跡例
OISTERの連携観測によって撮影されたバイザーサット(1段目と3段目)と通常スターリンク衛星(2段目と4段目)の航跡の例。1と2段目はむりかぶし望遠鏡の3色同時撮像カメラ「MITSuME」(左からg’Rc、Icバンド)、3と4段目はSaCRA望遠鏡の三波長同時偏光撮像装置「MuSaSHI」(左からr、i、zバンド)による画像。画像クリックで拡大表示(提供:東京大学天文学教育研究センターリリース)

観測の結果、(1)バイザーサットの明るさは通常のスターリンク衛星と比べて可視光線・赤外線でほぼ半分、(2)両機ともに肉眼等級程度の明るさになる場合がある、(3)両機とも可視光線より近赤外線観測の方が明るい、といった傾向が判明した。また、紫外線観測では両機ともに航跡が検出されなかった。

通常のスターリンク衛星による太陽光の反射率を求めると、可視光線は6~15%、近赤外線では14~47%だった。バイザーサット本体の反射率も同じだと仮定して、日除けが本体を覆う割合(カバー率)を求めると、平均50%程度となった。このように、バイザーサットの日除けは、確かに太陽光反射を抑制する効果があることがわかった。しかし、航跡が十分明るく写ることから、観測への影響が残存することも明らかになった。

2021年9月以降、スペースXは衛星間通信に支障をきたすことを理由に、スターリンク衛星からバイザーを取り外している。次世代の人工衛星が次々と打ち上げられるなかで、明るさの測定が(とりわけ赤外線で)不十分なままだ。今後は、赤外線の観測も進めて、天文観測などへ及ぶ影響を評価することが求められる。