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星形成がもっとも盛んなのは130億年前か


【1998年7月30日 国立天文台天文ニュース(193)】

 可視光や紫外波長による観測から、これまで星形成がもっとも盛んだったのは、赤方偏移(z)が 1 から1.5 の銀河の中であり、時期にして今から70億から80億年前のことと考えられていました。 これは、現在想定されている宇宙年令150億年のほぼ半分の時期にあたります。

 しかし、この数値は、ダストによる光の吸収の補正が必ずしも正確とはいえないデータに基づくものであり、ダストの量によっては、大きく変化する可能性のあるものでした。

 今回、エジンバラ大学のヒューズ(Hughes,David H.)らのグループとハワイ大学のバーガー(Barger,A.J.)らのグループは、遠距離の銀河に対してサブミリ波の観測をおこない、星形成がピークであったのはそれよりもずっと前で、赤方偏移では 3 程度、時期にして130億年前頃であろうという新しい推定を発表しました。

 恒星はダストから生まれます。 したがって、星形成が盛んにおこなわれている銀河はダストに富んでいなくてはなりません。 一般に宇宙空間に存在するダストは、恒星などから放射される可視光や、紫外光を吸収して数10K程度に暖められます。 暖められたダストは、そのエネルギーを熱放射として遠赤外波長帯で再放出します。 つまり、ダストは、恒星の可視光、紫外光を遠赤外放射に変換する働きをするのです。

 遠方の銀河でこのような変換がおこなわれると、遠赤外の放射は赤方偏移によってさらに波長が伸び、われわれにとってはサブミリ波の電波になって見えます。 たとえば赤方偏移 3 の銀河から放射された波長200マイクロメートルの遠赤外光は、地球では波長800マイクロメートルのサブミリ波として観測されるのです。

 つまり、サブミリ波を観測すれば遠方の銀河の遠赤外の放射が検出でき、ダストの存在がわかることになります。

 ヒューズ、バーガーらの二つのグループは、サブミリ波観測熱放射アレイ、スキューバ(Submillimetre Common-User Bolometer Array;SCUBA)を装着した、ハワイの口径15メートル、ジェームズ・クラーク・マクスウェル電波望遠鏡を使って、赤方偏移が 2 から4 の間にある7つの区域の銀河を観測しました。 スキューバの検出器は100ミリケルビンという超低温に冷却しなければなりませんが、それによって非常に感度が高まり、同種のどんな検出器よりも迅速にデータの収集ができます。

 観測の結果、彼らは、それらの銀河で、可視光による放射の 5 倍ものエネルギーで遠赤外波長の放射がおこなわれていることを突き止めました。 これらの銀河は距離にして約130億光年、宇宙が現在の年令のほぼ8分の1である時期に相当します。 したがって、宇宙はこれまで推定されていたよりずっと早いごく初期の時代から、盛んに恒星を誕生させていたと考えられます。

参照 Hughes,D.H. et al., Nature 394,p.241-247(1998).
Barger,A.J. et al., Nature 394,p.248-251(1998).
Scott,D. Nature 394,p.219-220(1998).


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