脈動変光星たて座Rの主極小がまもなく見ごろ

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約145日の周期でおよそ5~8等を推移する変光星、たて座Rが9月下旬に主極小を迎える。どの程度まで暗くなるのか注目してみよう。

【2022年8月22日 高橋進さん】

たて座は小さな星座で明るい星がないため、あまり目立ちませんが、天の川の流れの中にあるので、夏の天の川を見たり撮ったりすれば意識しなくても目にしている星座です。そのたて座に位置する変光星たて座Rは、極大等級が5.5等くらい、主極小は暗い時には8等ほどになり、この大きな光度変化が魅力の天体です。今年5月初旬におよそ7等の主極小になり、変光周期が145日前後なので、次の主極小は9月下旬ごろと予想されています。

たて座R周辺の星図
たて座R周辺の星図。数字は恒星の等級(42=4.2等)を表す。画像クリックで表示拡大(「ステラナビゲータ」で星図作成)

たて座Rは、おうし座RV型変光星の一つです。このタイプの変光星は、大きな減光の主極小と小さな減光の副極小が交互に現れます。この現象は基本モードの振動とその半分の振動が共振することによって現れるもので、1つの周期の中で2回の極小があることから「1周期で2度楽しめる変光星」などと言われることもあります。今年1月にご紹介した脈動変光星「いっかくじゅう座U」もおうし座RV型変光星で、極大が5.5等くらい、主極小ではおよそ7等まで暗くなります。

おうし座RV型変光星の光度曲線
おうし座RV型変光星の光度曲線が形成される仕組み。画像クリックで表示拡大(作成:高橋さん)

この主極小の減光幅が、たて座Rではその時々で変わり、振幅の大きい活動的な増減光が見られる時期が1~2年見られた後は小振幅期が1~2年続くといった変化が見られます。2019年から2020年はかなり活動的な時期で、7~8等に及ぶくらいの大きな主極小が見られましたが、2021年から2022年はどちらかというとおとなしい時期のようです。光度曲線がこのように変化するのは、たて座Rの基本モードが147日であるのに対してもう一つの振動が基本モードの半分から少しずれた69日の振動で、このずれによるものという説があります。

たて座Rの2019~2020年の光度
たて座Rの2019~2020年の光度(VSOLJメーリングリストのデータから高橋さん作成、以下同)

たて座Rの2021~2022年の光度
たて座Rの2021~2022年の光度。画像クリックで表示拡大

今後たて座Rがどのような変光パターンを見せるか、たいへん興味深いところです。前述のとおり最近はおとなしい時期でしたが、そろそろ次の活発な時期を迎えてダイナミックな変光が見られるかもしれません。

一方、2022年7月の副極小では非常に小さな変動しか見られませんでした。たて座Rではたまに主極小クラスの減光がほとんど見られなくなり、代わって副極小程度の減光が続くこともあります。もしかするとこの7月の小さな副極小は、その始まりかもしれません。また、おうし座RV型変光星の基本は主極小と副極小が交互に見られることなのですが、変動が小さな時期になると主極小がただの副極小程度の小さな変動になるだけでなく、主極小と副極小の順序が入れ替わってしまうこともあります。それはそれで興味深い時期と言えます。

9月にはダイナミックな主極小が見られるのか、それともおとなしい光度変化の時期になるのか、目が離せません。こうした点が、変光星観測者の中で多くのファンを持つたて座Rの面白さでもあります。数ある変光星のなかでも人気の高いたて座Rを、この秋はぜひお楽しみください。

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