火星のダストストームを深層学習で自動検出する方法
【2022年2月15日 京都産業大学】
火星では時おり、惑星全体を覆うようなダストストーム(砂嵐)が出現し、地球からも観測できるほど大規模に発達することがある。一方、本州程度の面積よりも小さな局所的ダストストームは年間(1火星年=687日)に1000個以上発生しているが、局所的ダストストームの発生メカニズムはよくわかっていない。
京都産業大学の小郷原一智さんと滋賀県立大学の義忠隆生さんは、局所的ダストストームの発生時に典型的な周囲の大気状態(気圧配置)を調べることで、このメカニズムの解明に取り組んだ。ダストストームが高気圧や低気圧、あるいは前線の通過に伴って発生するかどうかがわかれば、メカニズムを知る手がかりとなる。
研究を行うにあたっては局所的ダストストームがいつどこで発生しているのかを知る必要があるが、そのためのデータベースは存在していなかった。探査機による過去20年にわたる火星大気の観測データは存在するが、その中から局所的ダストストームを人力で探し出すのは難しい。そこで小郷原さんたちは深層学習により、ダストストームの自動検出を試みた。
まず、数十枚程度のダストストームの観測画像を抽出し、ダストストームの位置を機械に示すための「教師画像」を手作業で作成する。それらを用いて深層学習の「ダストストーム識別器」を訓練すると、未知の画像を見てどの部分がダストストームらしいかを示せるようになるという仕組みだ。
火星のアルカディア平原西部におけるダストストームの領域分割の例。(上)NASAの探査機「マーズ・グローバル・サーベイヤー」がとらえたダストストームの観測画像、(中)小郷原さん作成の教師画像。白いところがダストストーム領域、(下)深層学習の結果から示されたダストストームっぽさ。明るい(白い)ほどダストストームである可能性が高いと判断している(提供:京都産業大学リリース)
この方法を開発したことで、観測画像中にダストストームがあるかないかだけでなく、面積も計測できるようになった。今後さらに改良を加えることで、大雑把な形状の自動認識も可能になるという。
〈参照〉
- 京都産業大学:理学部 宇宙物理・気象学科の小郷原准教授が、深層学習を用いて火星ダストストームの自動検出を行う方法を提案しました
- Progress in Earth and Planetary Science:主成分分析とニューラルネットワークを用いた火星観測画像におけるダストストーム領域の自動検出
- Computers and Geosciences:Automated segmentation of textured dust storms on mars remote sensing images using an encoder-decoder type convolutional neural network 論文
〈関連リンク〉
- アストロアーツ 天体写真ギャラリー:2021年 火星
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