衝突により表層が新鮮になった小惑星
【2022年1月11日 JAXA宇宙科学研究所】
地球のように成長した惑星では内部が溶融したため、太陽系形成時の物質の情報は失われてしまっている。一方、ある程度以上大きい小惑星では情報がそのまま残されていると考えられるが、表面は太陽風や微小天体の衝突による宇宙風化を受けて変化しているかもしれない。新鮮だと考えられる内部を探るには、「はやぶさ2」が小惑星リュウグウに対して実施したような人工的な衝突を起こすか、小惑星同士が偶然衝突するのをとらえるしかない。
2010年12月に小天体との衝突を起こした直径114kmの小惑星「シャイラ((596) Scheila、シーラとも)」は、このような研究に格好の対象と言える。これまでに小惑星帯にある直径100km以上の小惑星を観測して近赤外線を中心とした分光データを集めてきたJAXA宇宙科学研究所の長谷川直さんたちの研究チームは、衝突前後におけるシャイラのスペクトルの変化を調べた。
(左)沖縄県石垣島天文台・むりかぶし望遠鏡がとらえた、2010年12月に起こったシャイラでの衝突現象。(右)モデル計算によって衝突現象を再現した画像。モデル計算が観測結果を忠実に再現していることがわかる(提供:国立天文台(Ishiguro et al. 2011 ApJ 741, L24での研究結果を改変))
シャイラのスペクトルは可視光線では変化しなかったものの、波長0.8~2.5μmの近赤外線では長い波長の成分が増加する傾向にあった。短い波長を青、長い波長を赤と表現するならば、シャイラは衝突後に赤くなったと言うことができる。スペクトルに基づく分類では、シャイラはもともとT型小惑星だったが、衝突後のスペクトルではより赤いD型ということになった。このD型やT型はリュウグウのようなC型小惑星よりも赤いスペクトルを示すもので、太陽系形成時から残る始原的な天体と考えられている。
衝突前後のシャイラのスペクトル変化。横軸が波長、縦軸が波長0.55μmを1としたときの相対的な反射率の強度。衝突後は波長の長い成分が相対的に増加し、「赤く」なった(提供:JAXA宇宙科学研究所(Hasegawa et al. 2022より改変))
シャイラのスペクトルの変化が、宇宙風化を受けた表層が取り除かれたことによるものだとすれば、T型やD型のような赤いスペクトルを持つ小惑星が宇宙風化を受けるとスペクトルは青くなるのだということになる。これは、過去に隕石を使って行われた実験結果とも一致する推察だ。海王星より外側の太陽系外縁天体のほとんどは赤いスペクトルを持つが、これは宇宙風化の原因となる太陽風などの影響が少ないためだと考えられる。
一方で、リュウグウに「はやぶさ2」が作った人工クレーターでは、露出した部分の方がスペクトルが青く、古い部分が赤いという、シャイラとは逆の結果が出ている。これについては元々のスペクトル型の違いや、リュウグウが過去に太陽に大きく近づいていた可能性などが原因として考えられうる。
シャイラのような小惑星では、今回のような規模の衝突は数千~数万年に1度の割合で起こると試算されている。仮にその都度、表面が一新されているのだとすれば、宇宙風化は遅くとも数千~数万年で進行してしまう計算になる。
〈参照〉
- JAXA宇宙科学研究所:探査するなら、これ?化粧を落として若返った小惑星 小惑星帯に新鮮な表層を持つ天体を発見
- The Astrophysical Journal Letters:The Appearance of a "Fresh" Surface on 596 Scheila as a Consequence of the 2010 Impact Event 論文
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