太陽系のかすかな塵の光をとらえる「はやぶさ2」

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新たな小惑星を目指して飛行中の「はやぶさ2」から黄道光を撮影し、太陽系内の塵の分布を調べようという観測が始まっている。

【2021年8月25日 JAXAはやぶさ2プロジェクト

小惑星探査機「はやぶさ2」のミッションで現在一番注目されているのは、昨年12月6日に地球へ届けられた小惑星リュウグウのサンプルだろう。サンプルの入ったカプセルが大気圏に突入したときの光景は、半年以上経った今でも記憶に鮮明に残っているかもしれない。

超望遠撮像されたサンプルの大気圏突入
大気圏に突入して火球となったカプセル。地上の超望遠撮像システムがとらえたこの画像は8月23日に公開された。データの解析から熱防御システムの挙動などに関わる新しい知見が得られることが期待される(提供:JAXA)

探査機本体は現在、地球から約1億1540万kmの位置にあり、新たな目標天体である小惑星「2001 CC21」と「1998 KY26」へ向かう拡張ミッションに入っている。2つの小惑星にはそれぞれ2026年と2031年に到着する予定で、飛行の途中にも様々な科学観測が計画されている。

こうした科学観測の一つとして、太陽系の中を漂う「惑星間塵」を撮影する観測が計画されている。

黄道光を観測する「はやぶさ2」
黄道光を観測する「はやぶさ2」の想像図(提供:拡張ミッション紹介動画より)

惑星間塵は直径1mm以下というきわめて小さな塵の粒子で、流星のもととなる物質(直径数mm~数cm)よりもさらに小さいが、地球には毎日100t以上もの惑星間塵が降り注いでいると推定されている。惑星間塵の成分は、彗星から放出された物質や小惑星同士が衝突してまき散らされた物質からなると考えられている。「はやぶさ2」もリュウグウに2度にわたって着陸し、リュウグウの表面に人工クレーターを生成する実験などを行ったが、これらの活動で巻き上げられてリュウグウを脱出した微粒子も、やがては惑星間塵の一部となる。

太陽系に存在する惑星間塵は「黄道光」という現象によって、地上からも見ることができる。光害のない暗い場所で夜空を見ると、黄道に沿った淡い光の帯が肉眼で見えることがある。これが黄道光で、黄道面に多く分布している惑星間塵が太陽光を散乱して見えるものだ。

惑星間塵が太陽系の中で3次元的にどう分布しているかを知ることは、太陽系の物質がどのように移動しているのかを理解する上で重要だが、天球上の黄道光を地上や宇宙望遠鏡から見ているだけでは、視線の奥行方向に惑星間塵がどう分布しているのかがよくわからないという問題がある。

そこで「はやぶさ2」プロジェクトチームでは、「はやぶさ2」の光学航法望遠カメラ(ONC-T)を使って黄道光を継続的に観測し、太陽系内での惑星間塵の分布を詳しく調べようとしている。

今後数年間の「はやぶさ2」は、主に地球軌道の内側(太陽から0.7~1.0天文単位)を飛行し、2027年に地球でスイングバイを行った後は地球軌道の外(1.0~1.5天文単位)へと軌道を変える。そのため、地球から遠く離れた様々な位置から様々な方向で黄道光を立体的に観測でき、太陽系内の惑星間塵の分布を詳細に調べられると期待される。太陽系内の広い範囲を長期にわたって航行する拡張ミッションならではの観測だ。

はやぶさ2が取得した黄道光観測データの例
(左)2021年8月9日に「はやぶさ2」のONC-Tで撮影された黄道光の観測データの例。くじら座の方向がとらえられている。こうした画像の背景の明るさを測定することで惑星間塵の密度がわかる。(右)画像に写っている主な天体の名前(提供:JAXA、東京都市大、関西学院大、九州工業大、東京大、高知大、立教大、名古屋大、千葉工大、明治大、会津大、産総研)

黄道光の観測は、宇宙の歴史の中で恒星やブラックホールがいつ、どのように形成されたかを理解することにも役立つ。このような初期宇宙に存在した天体の光は、宇宙空間のごく淡い背景光として観測されるはずだが、私たちが太陽系内から宇宙を観測する場合、遠方宇宙から届く背景光よりも黄道光の方がはるかに明るいため、初期宇宙の明るさを正確に測定することが非常に難しいのだ。はやぶさ2」によって黄道光の精度よい観測ができれば、初期宇宙にどれだけの量の天体が存在するかを推定する上でも大いに役に立つだろう。

「はやぶさ2」新たなる挑戦 ー拡張ミッションー(提供:JAXA)

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