系外「衛星」を生み出す円盤の姿をとらえた

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成長中の系外惑星PDS 70cを取り巻く「周惑星円盤」の姿がアルマ望遠鏡で撮影された。衛星の誕生現場がはっきりととらえられたのはこれが初めてだ。

【2021年7月30日 アルマ望遠鏡ヨーロッパ南天天文台

太陽系のような惑星系が恒星とともに誕生する過程については、生まれたての星、およびそれを囲むガスと塵の円盤(原始惑星系円盤)が多数見つかったことで、少しずつ明らかになっている。この円盤の中で物質が集まって惑星となるのだ。さらにそこから衛星が誕生する過程についても、恒星の周りで起こったのと同じように、惑星の周りに集まった物質が作る「周惑星円盤」が母体となるという予測があった。ただ、この理論を裏付ける観測的証拠は乏しい。

その周惑星円盤があると考えられ、観測が続けられてきた若い系外惑星の周りに、生まれつつある衛星系の姿がはっきりととらえられた。

PDS 70系とPDS 70 cを取り巻く周惑星円盤
アルマ望遠鏡による擬似カラー画像。(左)PDS 70系の全体像。(右)若い巨大ガス惑星であるPDS 70 c周辺のクローズアップ。中心の光点がPDS 70 c、その周囲に周惑星円盤を構成する塵が見られる。画像の右側の大部分を占めているのは恒星PDS 70の星周円盤(提供:ALMA (ESO/NAOJ/NRAO)/Benisty et al.)

研究対象となっているのはケンタウルス座の方向約370光年の距離に位置するPDS 70という、原始惑星系円盤が残る若い星だ。ヨーロッパ南天天文台(ESO)の超大型望遠鏡VLTによる観測で、2018年に中心星から約30億km(太陽から天王星までに相当)の距離に惑星PDS 70 b、2019年に約50億km(太陽から海王星よりも少し遠い)の距離に惑星PDS 70 cが見つかった(参照:「形成中の系外惑星の撮像に成功」「原始惑星系円盤の隙間に2つの惑星を直接撮像」)。どちらも木星の数倍の質量を持つ巨大ガス惑星であり、成長中の原始惑星が見つかったのは初めてだった。

その後の観測でPDS 70 cの周りに周惑星円盤らしきものが見つかったが、周囲から切り離して確固とした円盤と見なすには解像度が足りなかった(参照:「若い星の周りで見つかった、衛星を作る周惑星円盤」)。

仏・グルノーブル・アルプ大学/チリ大学のMyriam Benistyさんたちの研究チームは、アルマ望遠鏡を用いてPDS 70系を高解像度で撮影し、PDS 70cを囲む周惑星円盤をはっきりととらえた。円盤の直径は土星の環の500倍ほどで、太陽から地球の距離に匹敵する。また、この円盤の質量は地球の月と同程度の衛星が3つ作れるほどだという。

一方、PDS 70 bの周りには円盤が検出できなかった。材料となる塵をPDS 70 cの方にとられてしまったようだ。

「これまでに4000個以上の系外惑星が発見されていますが、いずれも成長しきった惑星系でした。今のところ形成段階で見つかった系外惑星は今回のPDS 70 bとPDS 70 cの2つだけで、これらは木星と土星を彷彿とさせる関係にあります」(独・マックス・プランク天文学研究所 Miriam Kepplerさん)。「だからこそ、この系は惑星と衛星の形成プロセスを観測して研究するという貴重な機会を提供してくれるのです」(ESO Stefano Facchiniさん)。