ESAも金星探査、「エンビジョン」計画を発表

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ヨーロッパ宇宙機関は2030年代前半に打ち上げる探査計画として金星周回機「エンビジョン」を選定した。また2035年から2050年に実施する大規模探査計画のテーマも発表した。

【2021年6月14日 ヨーロッパ宇宙機関(1)(2)

ヨーロッパ宇宙機関(ESA)はこれまで約10年ごとに長期計画を立て、期間内に打ち上げる大規模・中規模等のミッションの数を定め、公募で集まった計画の中から選定して実行してきた。現在の長期計画「Cosmic Vision(コズミックビジョン)」では5つの中規模ミッションを予定しており、そのうち4つは決定していた。

6月10日に開かれたESAの科学プログラム委員会で、5つ目の中規模ミッションとして、金星の大気上層から中心核に至るまでの全球的な探査を行う「エンビジョン(EnVision)」が選ばれた。計画では、探査機は2030年代前半にアリアン6ロケットで打ち上げられ、約15か月かけて金星に到着し、大気ブレーキを使い16か月間かけて軌道を調整する。最終的には金星南北の極域上空を通り、高度約220~540kmの円形に近い軌道を92分で一周する。

「エンビジョン」のイラスト
「エンビジョン」のイメージイラスト(提供:NASA / JAXA / ISAS / DARTS / Damia Bouic / VR2Planets)

ESAの金星探査機としては2005年から2014年まで稼働していた「ビーナス・エクスプレス」に続くものとなる。ビーナス・エクスプレスは金星の大気を調査する計画だったが、その過程で火山活動の可能性を示すデータも得ていた。エンビジョンはこれを引き継ぎ、大気の成分を分光器で調べ、活火山の兆候を探す。さらにNASAが提供するレーダー装置によって地表を調べ、1990年代にNASAの探査機「マゼラン」が撮影したとき以上に精細な画像を取得する狙いだ。また、電波による観測で金星の内部構造や重力場も調べることが可能となる。

これらの装置を駆使することで、エンビジョンは金星の内部、地表、大気における変化がどのように連動しているのかを解き明かす。NASAも「ダビンチ+」と「ベリタス」という金星探査ミッションを採択したばかりであり、3つの探査機によって金星の全体像が見えてくると期待される。

「私たちの惑星に一番近く、同時にあまりにも異なる太陽系のお隣を探査する新たな時代が到来します。NASAが発表した金星ミッションとともに、私たちは2030年代にこの謎多き惑星における非常に包括的な科学プログラムを実施します」(ESA科学部長 Günther Hasingerさん)。

「エンビジョン」紹介動画「EnVision: ESA's next mission to Venus」(提供:European Space Agency / Paris Observatory / VR2Planet)

なお、コズミックビジョンの中規模ミッションとして他に選定されているのは、太陽探査機「ソーラーオービター」、近赤外線宇宙望遠鏡「ユークリッド(Euclid)」、系外惑星探査宇宙望遠鏡「プラトー(PLATO)」、系外惑星サーベイ宇宙望遠鏡「アリエル(ARIEL)」の4つ。ソーラーオービターは2020年2月に打ち上げられ初期成果も報告されている。ユークリッド、プラトー、アリエルは、今後10年以内に打ち上げられる予定だ。

また、10日の科学プログラム委員会では、コズミックビジョンに続く2035年から2050年の長期計画「ボヤージュ(Voyage)2050」に関する発表もあった。同計画で実施するミッションの公募は既に始まっていて、既に100件近い応募が寄せられている。それを踏まえ、委員会はボヤージュ2050の大規模ミッションで優先すべきテーマを発表した。その内訳は太陽系における巨大惑星の衛星、温暖な系外惑星または天の川銀河の全貌のどちらか、そして初期宇宙の探査となっている。

「ボヤージュ2050」の探査対象のイメージイラスト
「ボヤージュ2050」の大規模ミッションが目指すターゲット。(上)太陽系内の巨大惑星の衛星の例。土星の衛星「エンケラドス」の南極域では、表面のひび割れから間欠泉のように水が噴出している。(中)天の川銀河内の系外惑星。(下)初期宇宙に存在していたブラックホールや宇宙最初の構造(提供:ESA/Science Office)