「はやぶさ2」リュウグウ試料の分光で水・有機物の特徴を検出
【2021年4月30日 JAXAはやぶさ2プロジェクト】
2020年12月に「はやぶさ2」が持ち帰った小惑星リュウグウの試料は現在、JAXA宇宙科学研究所の地球外試料キュレーションセンターで、大きめの粒子と粒の細かい試料(バルク試料)に分けられ、それぞれ高精細の顕微鏡を使った分析が行われている。
4月27日に行われた記者説明会では、バルク試料の赤外線分光測定の結果や、「はやぶさ2」および地上望遠鏡によるリュウグウの科学観測の成果、さらに「はやぶさ2」本体の状況について報告が行われた。
リュウグウ試料のスペクトルから水、有機物などの特徴を検出
キュレーションチームでは、リュウグウ試料に赤外線を当てて反射光を分光する測定を行っている。測定にはFTIRと呼ばれる一般的なタイプの赤外線分光装置と、「はやぶさ2」に相乗りしていた小型ローバー「MASCOT」にも搭載されていた赤外線分光顕微鏡「MicrOmega」が使われている。
第1回タッチダウンで採取されたA室試料の一部を赤外線分光顕微鏡「MicrOmega」で撮影した画像。赤く強調されている粒子が水酸基を多く含むとみられるもの。左側の粒子に見られる白い線は表面の凹凸が光を反射しているもので、鉱脈などではないという(提供:MicrOmega/IAS/CNES)
これまでの測定の結果、反射光のスペクトルで波長が2.7μmと3.4μmの付近に吸収が見られることが明らかになった。2.7μmの吸収は「はやぶさ2」の分光計「NIRS3」でリュウグウ表面をリモートセンシング観測した際にも検出されていて、水(水酸基、またはヒドロキシ基、-OH)が存在する場合の特徴だ。一方、3.4μmの吸収は炭素原子と水素原子の結合(-C-H)を持つ有機分子や、炭酸イオン(-CO3)の構造を持つ分子が存在する場合に見られる。
キュレーションチームはこの結果について、リュウグウの試料が含水鉱物や有機物、または炭酸塩などを含む始原的な物質であることを示唆するものだと考えている。ただし、具体的にどのような物質が含まれているかを特定するためには、今後さらに高精度の分析が必要だ。
リュウグウは低緯度地域に水が多い
「はやぶさ2」理学チームでは、「はやぶさ2」の望遠光学航法カメラ「ONC-T」でリュウグウの表面を撮影したデータから、含水鉱物がある場合に波長0.7μm付近に現れる吸収の分布を精密に調べた。その結果、リュウグウでは「リュウジン尾根」と命名された赤道の尾根部分で特に0.7μmの吸収が強いことがわかった。
「はやぶさ2」の2回のサンプル採取はいずれもこの尾根の上で行われたため、リュウグウの中でも含水鉱物の多い場所で試料を採取できた可能性があると理学チームは考えている。
また、これまでの分析で、リュウジン尾根の付近は表面の物質がわずかに青っぽい傾向があり、あまり高温にさらされていない新鮮な物質が多いと考えられていた。この領域で水が多いという今回の結果は、表面物質の色の傾向とも一致している。
リュウグウの反射光は強く偏光している
2020年9~12月にかけて、京都大学の黒田大介さんを中心とする研究チームが、広島大学・兵庫県立大学・北海道大学・ソウル大学の望遠鏡を使ってリュウグウの偏光観測を行った。その結果、リュウグウはこれまでに偏光観測が行われた太陽系小天体の中で最も高い偏光度を持っていることがわかった。観測結果から、リュウグウ表面では1mm以下の粒子が集まってできた岩石が多く分布していると考えられるという。
「はやぶさ2」の小型モニタカメラが故障
「はやぶさ2」のサンプラーホーンの根元に装着されている小型モニタカメラ(CAM-H)は、一般市民からJAXAに寄せられた寄付金で開発・搭載されたオプションの観測機器だが、リュウグウへのタッチダウンの瞬間を動画でとらえるなど、これまでに数多くの成果を挙げてきた。
「はやぶさ2」が地球に帰還した2020年12月以降、このCAM-Hの制御部が起動せず、撮影ができなくなっていることが報告された。原因は宇宙放射線による劣化とみられており、復旧は難しいという。CAM-Hは他の搭載機器に比べて、宇宙仕様ではない民生品の部品が多く使われているため、放射線による劣化が早く表れたようだ。
また、「はやぶさ2」の姿勢制御などに使われているスラスターの噴射部を保温するヒーターも一部が故障しているという。ただしこちらはバックアップ手段で回復できているため、今のところ運用には問題はない。
2019年2月22日の第1回タッチダウンで、小型モニタカメラ(CAM-H)が撮影した連続画像を動画にしたもの。実際の5倍速になっている(提供:JAXA、公開動画の一部を編集しGIFアニメーションに変換)
〈参照〉
- JAXAはやぶさ2プロジェクト:小惑星探査機「はやぶさ2」記者説明会 2021年4月27日
- 京都大学大学院理学研究科附属天文台 花山天文台・飛騨天文台・岡山天文台:偏光観測は小惑星リュウグウを探るラストピース
- Icarus:Improved method of hydrous mineral detection by latitudinal distribution of 0.7-μm surface reflectance absorption on the asteroid Ryugu 論文
- The Astrophysical Journal Letters:Implications of High Polarization Degree for the Surface State of Ryugu 論文
〈関連リンク〉
関連記事
- 2023/01/25 リュウグウの炭酸塩は太陽系誕生の180万年後にできた
- 2023/01/06 「はやぶさ2」拡張ミッション応援!目標の小惑星による恒星食を観測
- 2022/12/26 小惑星リュウグウは彗星と同郷か
- 2022/12/23 リュウグウ粒子は微小隕石の衝突で融けていた
- 2022/12/19 地球質量の5%は太陽系外縁で生まれたリュウグウ的物質
- 2022/12/12 【星ナビ取材】ガンマ線でリュウグウの謎に挑む研究の最前線
- 2022/11/30 小惑星の雪崩がコマの形を作る
- 2022/10/25 リュウグウ粒子からガス成分を検出
- 2022/09/27 リュウグウ粒子から炭酸・塩が溶け込んだ水を発見
- 2022/08/22 リュウグウ粒子が示唆する有機物の「ゆりかご」
- 2022/07/05 「はやぶさ2」は拡張ミッション「はやぶさ2♯」へ
- 2022/06/16 リュウグウ試料からアミノ酸などを検出
- 2022/03/28 小惑星リュウグウがかつて彗星だった可能性を指摘
- 2022/03/25 「はやぶさ2」帰還時の軌道を音で決定
- 2022/02/28 「はやぶさ2」が2026年フライバイの小惑星を地上から観測
- 2022/02/21 「はやぶさ2」が持ち帰ったリュウグウの花吹雪
- 2022/01/17 リュウグウ試料のカタログを公開
- 2021/12/28 リュウグウ試料から水・有機物・窒素化合物のスペクトルを検出
- 2021/12/07 「はやぶさ2」帰還から1年、試料の分析結果は来春公表予定
- 2021/09/08 空に浮かぶダイヤモンド、ベンヌとリュウグウの形の成因