位置天文学の高精度化を実現、VERAプロジェクト20年の成果

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国内4か所の電波望遠鏡が連動して高解像度の観測を実現するVERAの成果をまとめた論文集が発表された。天の川銀河のスケールを従来より精度よく決定することなどに成功している。

【2020年12月3日 国立天文台VERA

「VERAプロジェクト」は、国内4局(岩手県水沢市、鹿児島県入来町、東京都小笠原村父島、石垣島)の電波望遠鏡の観測データを組み合わせ、水沢・石垣島間の距離(2,300km)と同じ大きさの望遠鏡を実現し、高い解像度の観測によって天体までの距離や運動を精密に計測する「位置天文観測」を行っている。

VERAの配置図
VERAの配置図(提供:国立天文台、以下同)

VERAで得られたデータを用いて、天の川銀河の3次元立体構造のほか、星の形成や進化、銀河中心の超大質量ブラックホールやそこから噴き出す超高速ジェットといった、様々な研究が進められている。2020年8月に出版された日本天文学会欧文研究報告(PASJ)のVERA特集号では、VERAで天体の位置を観測した結果を全てまとめたカタログをはじめ、観測精度向上のための検証結果や最新の研究成果などが10本の論文として発表された。

VERAのデータは、望遠鏡の完成から20年近くにわたって取得されてきた膨大なものだ。VERAデータ解析チームは、専用のソフトウェア「VEDA(ベーダ)」を開発して解析の自動化を進め、数多くの天体までの距離を計測できるようにした。

また、20年近くにわたる経験に基づいた観測・解析方法を駆使することで、VERAの天体位置測定精度は世界トップレベルである10マイクロ秒角(=3億6000万分の1度)を達成した。これは地球から月面に置かれた1円玉を観測したときの見かけの大きさに相当する。これによって3万光年を超える天体までの距離を測定できるようになり、これまでにない広大な天の川銀河の地図作りが実現した。

今回論文として発表されたカタログには、初公開となる21天体を含めVERAが観測した99個のメーザー天体がまとめられている。こうした天体の位置を精度良く決定したことにより、天の川銀河の中心かららせんを描くように伸びる「腕」に沿ったメーザー天体の分布が明確になり、「複数の腕を持つ渦巻銀河」としての天の川銀河の姿がはっきりととらえられるようになった。

天体の分布と天の川銀河の渦巻き構造の想像図
VERAを含むVLBI観測で得られた224個のメーザー天体の位置および回転運動(色のついた矢印)と天の川銀河の想像図。同じ色の矢印の天体は同じ腕に所属する。今回の観測結果は従来の想像による渦巻腕(想像図と黒い曲線)とよく一致していた

また、観測データとシミュレーションによる計算結果との比較から、太陽系から天の川銀河の中心までの距離(銀河中心距離)は2万5800(±1100)光年、太陽系の位置における銀河回転速度は秒速227(±11)kmと、誤差5%の精度で決定することができた。1985年に国際天文学連合が発表した銀河中心距離の推奨値は2万7700光年で、今回の結果はこれより小さくなっている。一方、天の川銀河の中心にある超大質量ブラックホール「いて座A*」を取り巻く天体の運動を元に2019年に発表された推定値は2万5800~2万6600光年で、今回の結果とよく一致する。

今後VERAは人工衛星とも協力して、さらに高い精度の位置天文観測を進める計画だ。また、東アジアVLBIネットワークでも引き続き中心的な役割を担うことが期待される。

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