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南極大陸に天文台建設の夢

国立天文台・天文ニュース (159)


【1998年2月26日 国立天文台天文ニュース

 信じられないほどの低温、吹きすさぶ雪嵐。こうした条件下で、南極は天文台建設にまったく不向きな場所だと考える方が多いでしょう。 しかし、それは必ずしも事実ではありません。低温の環境であることは確かですが、いつでも雪嵐が吹いているわけではなく、穏やかな日もあり、冬には太陽が昇らず、すばらしい星空を仰ぐことも多いのです。 都市光害とはまったく無縁で、大気は乾燥し、南極は一種の理想的な観測環境にあるのです。「大気圏外についで観測条件がいいのは南極だ」ということもできます。

 そうはいっても、「望遠鏡などの観測機器の操作が十分にできるのか」という心配はあります。 その調査のために、1991年にアメリカは、南極天体物理学センター(Center for Astrophysics in Antarctica;CARA)を創設しました。 そしてCARAは、南極基地に、口径0.8メートルのパイソン望遠鏡、1.7メートルのサブミリ波望遠鏡、0.6メートルの南極赤外望遠鏡などを設置し、予備観測をおこなってきました。 特に赤外望遠鏡は熱線を放射するどの温かい物体からも離れているので、中緯度の天文台より200倍も効率的と予想されました。 もちろん、これらの観測がすべて順調に進んだのではありませんでしたが、結局南極は、長波長、赤外、サブミリ波の観測に適していることを明らかにしたのです。 CARAの活動を監督している審査団は、CARAに基金を出している国立科学財団(National Science Foundation;NSF)に、「より大規模な恒久的施設を建設することが妥当である」との答申をしました。 そして、昨年6月のアメリカ天文学会で、CARAのメンバーは、国際南極天文台(International Antarctic Observatory;IAO)建設についての支持を呼びかけたのです。

 しかし、最大の問題は建設資金です。少なくとも1億ドルは必要ですが、NSFがそれだけの資金を出すことはできません。 建設推進派の人々は、IAO建設のため、国際的連合組織を作り、なんとか建設にこぎつけようとしています。 考えられている装備には、たとえば口径10メートルのサブミリ波望遠鏡があります。 これはハッブル宇宙望遠鏡でも扱うことのできないサブミリ波でダストの多い原始銀河を観測する装置で、ハワイ、マウナ・ケア山頂の同じ望遠鏡で100日かかる観測を、1日で成し遂げるだろうと提案者はいっています。 また、建設地には、極点基地から約2000キロメートル離れたドーム・コンコルデイアが候補地にあがっています。 そこは風が弱く、南極点より標高が高いので、24時間いつでも、静止衛星を通じて外部と連絡可能な地点なのです。

 しかし、建設までには、まだいくつもの高いハードルを越えなければなりません。 それらの困難を克服して、21世紀初頭に、われわれは南極大陸に天文台をもつことができるのでしょうか。

参照 Stone,Richard, Science 279,p.655-657(1998).

1998年2月26日          国立天文台・広報普及室



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