アンドロメダ座大銀河の巨大ハロー
【2020年9月4日 NASA】
秋の宵空、天頂近くに見えるアンドロメダ座大銀河(M31)は、天の川銀河から約250万光年の距離に位置する渦巻銀河で、観察や撮影の対象として天文ファンに人気の天体だ。天の川銀河の「お隣」と呼べるほどの近さにある大型の銀河であり、詳しく調べることが可能なので、研究対象としても非常に重要な天体である。
アンドロメダ座大銀河(撮影:reo.chokoさん)。画像クリックで天体写真ギャラリーのページへ
アンドロメダ座大銀河の星やガスを含む円盤部の周囲はガスに取り囲まれている。この領域は「ハロー」と呼ばれ、超新星爆発など銀河内で起こった過去の活動の痕跡などが含まれているが、ハローのガスは非常に希薄なために直接観察するのは難しい。
米・ノートルダム大学のNicolas Lehnerさんたちの研究チームは、ハッブル宇宙望遠鏡を用いた「AMIGA; Absorption Map of Ionized Gas in Andromeda」プロジェクトで、アンドロメダ座大銀河のハローの背後から届く遠方のクエーサーの光を観測した。ハローの電離ガスに吸収されるとクエーサーの光のスペクトルに変化が見られるので、その情報を手掛かりとしてハローの様子を調べることができる。
研究チームが43個のクエーサーを観測した結果、アンドロメダ座大銀河のハローは銀河から130万~200万光年まで広がっていることが明らかになった。天の川銀河のハローも同じように広がっていると考えられることから、両銀河のハローはぶつかっている可能性もある。天球上では北斗七星の幅3つ分に相当する広がりで、もし見ることができれば夜空のかなりの範囲を覆うことになるだろう。
アンドロメダ座大銀河のハローの分布(青紫の擬似カラー)。オレンジ色の丸がハローを調べるために利用された43個クエーサーの位置(提供:NASA, ESA, and E. Wheatley (STScI))
また、アンドロメダ座大銀河のハローが2層構造をなしていることも明らかになった。約50万光年の広がりを持つ内側の層は複雑でダイナミックな構造、外側の層はなだらかで高温という違いがある。この違いが生じる原因は、内側のほうが銀河の円盤内における超新星の活動の影響を直接受けやすいためと考えられる。
他の銀河のハローを同様の方法で調べようとしても、銀河が遠くハローの見かけの広がりが小さくなってしまうため、背景のクエーサーが1個しか存在しないことがほとんどだ。「40以上もの方向で銀河のハローに関する情報を得られるのはアンドロメダ座大銀河だけです。これは銀河のハローの複雑さをとらえるうえで画期的なことです」(Lehnerさん)。
〈参照〉
- NASA:Hubble Maps Giant Halo Around Andromeda Galaxy
- The Astrophysical Journal:Project AMIGA:The Circumgalactic Medium of Andromeda 論文
〈関連リンク〉
- HubbleSite
- AMIGA
- アストロアーツ:
- メシエ天体ガイド:アンドロメダ座大銀河
- 天体写真ギャラリー:アンドロメダ座大銀河
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