「はやぶさ2」の位置を精度よく推定する新手法

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小惑星リュウグウの地形を解析する上で、観測時の探査機「はやぶさ2」の位置が正確にわからなければいけない。これを従来より精密に推定する手法が開発された。

【2020年7月14日 JAXAはやぶさ2プロジェクト

地球に向けて帰還中の探査機「はやぶさ2」が小惑星「リュウグウ」で集めた観測データは、今も解析が続いている。とりわけ注目されているのがリュウグウの地形に関する情報だが、生のデータを正しく表面の凹凸などの数値に変換するには、観測した時点における「はやぶさ2」とリュウグウの位置関係を正確に把握する必要がある。「はやぶさ2」の位置は地球と交信する際に電波が往復するのに所要した時間で推定できるが、その誤差は数百mにもなるため、補正なしでは計算に使えない。

これまで「はやぶさ2」の位置を補正するには「幾何学的な軌道決定」が使われていた。これは、「はやぶさ2」とリュウグウ表面間の距離をレーザーを使って精密に測定するレーザー高度計「LIDAR」のデータを用いて、すでにわかっている地形情報を元に、「はやぶさ2」とリュウグウの距離が測定したとおりになるように「はやぶさ2」の位置の推定値を補正するというものだ。

一方、国立天文台の山本圭香さんをはじめとする「はやぶさ2」LIDARチームは、LIDARの他に広角カメラ「ONC-W1」のイメージトラッキングデータを使った上で、「力学的な軌道決定」によって従来の幾何学的に決定された位置をさらに精度よく補正する手法を開発した。探査機は宇宙空間において絶えず様々な外力を受けているので、その影響で軌道も変化していく。これを見積もりながら、観測値とできるだけ矛盾のないように補正するのが力学的な軌道決定である。

イメージトラッキングデータはONC-W1が撮影した画像の画心座標を表すデータだ。同カメラによる撮影では、リュウグウ表面の太陽に照らされている部分は白く(明るく)、影になっている部分や宇宙空間は黒く(暗く)写る。明るい部分の座標の平均値が画心(輝度中心)座標であり、これにより、ONC-W1が宇宙空間においてどちらの方向を向いているかがわかる。カメラが撮影した画像自体はデータ量が多いため、探査機から地上に送ることができるデータ量の制約から、限られた時刻でしか利用できないが、イメージトラッキングデータは容量が小さいため頻繁に測定できるのが利点だ。

LIDARとONC-W1
レーザー高度計「LIDAR」と広角カメラ「ONC-W1」(提供:JAXA、以下同)

LIDARが「はやぶさ2」とリュウグウの距離を測定するのに対して、イメージトラッキングデータは「はやぶさ2」のリュウグウに対する向きを示すので、両者を組み合わせることで「はやぶさ2」の位置を3次元的に把握できる。

力学的な軌道決定において、「はやぶさ2」に特に大きな影響を与える要素としてはリュウグウによる重力加速度と太陽輻射圧(太陽光が探査機を押す力)による加速度が挙げられる。研究チームは軌道推定の過程で、リュウグウのGM(万有引力定数とリュウグウの質量の積)の値および太陽輻射圧モデルの補正係数(計算に使用しているモデルを何倍すれば良いかという補正値)も同時に推定した。推定されたリュウグウのGM値は、29.8±0.3m3/s2だった。この値は異なる方法、過去にソフトウェアで推定された結果と誤差の範囲内で一致した。また、初期の太陽輻射圧モデルに対する補正係数は、1.13±0.16と推定された。

探査機の位置と速度を推定する仕組み
探査機の位置と速度を推定する仕組み

LIDARの距離情報だけを頼りに地形を当てはめることで軌道を決定する方法では、形がよく似た別の場所を参照してしまうことで、不正確な軌道が推定されてしまう場合があった。測距値に加えてイメージトラッキングデータを用い、力学的な軌道推定をすることで、こうした間違った地形への当てはめを修正することができ、軌道の改良に役立った。

今回研究チームが用いた軌道決定の方法は「はやぶさ2」ミッションだけでなく、将来の小天体ミッションに対しても精密な軌道を得るための軌道決定方法の一つとして役立つと期待される。

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