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これまででもっとも遠い銀河

国立天文台・天文ニュース (142)


【1997年11月20日 国立天文台・天文ニュース】

 オランダ、カプタイン研究所のフランクス(Franx,Marijn)らは、 ハッブル宇宙望遠鏡による観測、ケック望遠鏡によるスペクトル撮影によって、 赤方偏移 z=4.92 の一対の銀河を発見しました。 これは、いままでに発見した天体の中ではもっとも赤方偏移が大きく、 したがってもっとも遠い天体であると発見者たちは考えています。 この天体は、「おおぐま座」と「りゅう座」の境界付近にある、 CL 1358+62 と呼ばれる銀河団のところで発見されたものです。

 なお、上記の z は赤方変移の大きさを表わす記号で、 天体が遠ざかりつつあるときに、 ドップラー偏移によって光の波長が伸びる程度を示すものです。 観測される波長が本来の波長の z+1倍になったとき、 その赤方偏移を z で表わします。したがって、これらの銀河では、 波長121.6ナノメートルの水素のライマン・アルファ線が、 その5.92倍の、波長720.4ナノメートルの赤外線として観測されているのです。 赤方変移の大きさはその天体が遠ざかる速度を表わしますが、 同時にその天体の距離を表わし、 またその光がどれだけ前にその天体を離れたかをも示すのです。 つまりわれわれは、それだけ過去を振返ってその銀河を見ていることになります。 ですから、z=4.92 の天体は、宇宙の年令が現在の約10分の1、 つまりビッグバンから20億年も経っていない古い時代の姿を見せているのです。 このとき、宇宙のサイズは、今の20パーセントしかありません。 したがって、これら二つの遠い銀河は、 まだ、その進化の初期の段階にあるものと考えられます。

 興味があるのは、これらの銀河は単に遠くにあるだけではなく、 その手前にある別の銀河団による重力レンズ効果によって、10倍程度に拡大され、 実際より明るく見えていることです。そのため、これだけ遠距離にあっても、 これまでにないほど細部がはっきりと見えるのです。 そこには、星生成領域と考えられる不定形の「こぶ」があり、 放射状に物質の流れ出しもあって、 もっと近くにあるスターバースト銀河とよく似ています。 そこでは、おそらく活発な星生成が行われているのに違いありません。

 これまで、非常に遠いところに観測される天体はほとんどがクェーサーでした。 銀河に比べるとクェーサーの方がずっと明るく、 遠くにあっても容易に見えるからです。しかし、最近になって、 「ドロップアウト法」と呼ばれる高感度で銀河を検出する技術が開発され、 それによってこれらの銀河は発見されたのです。 この方法によると、 z>5 の銀河を発見することも可能かもしれないとフランクスはいっています。

参照 Franx,M. et al.,The Astrophysical Journal 486,L75-L78(1997).
   Lanzetta,K., Nature 390,p.115-116(1997).

   1997年11月20日        国立天文台・広報普及室



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