重い原始星が吐き出す「熱の波」
【2020年1月30日 国立天文台水沢VLBI観測所】
恒星の形成理論によると、原始星からの強い放射に阻まれるため、星の質量は太陽の8倍以上には成長できないことが示されている。しかし実際には、宇宙には太陽の何十倍もの質量を持つ大質量星が多数存在している。この理論と現実との不一致は、天文学上の謎となっている。
不一致を解決する案の一つとして、原始星が短時間の「爆発的な物質の降着(降着バースト)」を繰り返すことによって質量を増やすという説がある。このモデルによると、周囲からガスが一気に原始星に落ち込み、短期間に多くの質量を獲得すると考えられている。また、降着バーストが起こるのは数百年から数千年に1回で、それ以外の時期には静穏であるとされている。
このように降着バーストの期間が短く、さらに原始星が厚いガスや塵に覆われているため可視光線での観測が難しいことから、降着バーストを直接的にとらえることは困難だ。
2019年1月、へびつかい座の方向にある質量の大きな原始星「G358-MM1」で、降着バーストにつながる兆候が発見された。これを受けて、国立天文台水沢VLBI観測所のRoss Burnsさんたちの研究チームは南半球の電波望遠鏡ネットワーク「メーザー監視機構(Maser Monitoring Organization; M2O)」を編成し、降着バーストを起こした原始星が出す熱によって生じる放射の細かい構造を調べた。
Burnsさんたちは、数週間おきにM2Oによって得られた観測画像を比較し、G358-MM1の位置から外に向けて広がっていく「熱の波」を発見した。さらに、NASAの航空機望遠鏡「SOFIA」を用いた観測により、この波が降着バーストによって引き起こされたことを確認した。
(左)「熱の波」の想像図。降着バーストが引き起こした熱の波が外に向けて広がっていく様子を示している。(右)M2Oが取得したデータを用いて描いた電波写真。メタノール分子が出すメーザー輝線の環が、重い原始星(白い十字)の位置を中心に外向きに広がっていく「熱の波」の痕跡を示している。図中の色は、ガスが観測者から見て近づく(青)、もしくは遠ざかる方向(赤)の運動の速度を虹色の勾配で示している(提供:(左)Katharina Immer、(右)国立天文台, Burns et al.)
「原始星への降着バーストが引き起こす現象が、初めて詳細にとらえられました。間欠的な降着によって原始星が育つという理論を支持する発見です」(Burnsさん)。
M2Oでは今後も、質量の大きな原始星の性質や形成メカニズムについて、より詳しい研究を続ける予定だ。
〈参照〉
- 国立天文台水沢VLBI観測所:重い原始星が吐き出す「熱の波」
- Nature Astronomy:A heatwave of accretion energy traced by masers in the G358-MM1 high-mass protostar 論文
〈関連リンク〉
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