銀河中心ブラックホールの周りに広がる新たな「惑星」の世界

このエントリーをはてなブックマークに追加
銀河の中心に存在する超大質量ブラックホールの周りに「惑星」が形成される可能性が、理論計算によって示された。

【2019年11月29日 国立天文台天文シミュレーションプロジェクト

これまでに系外惑星は4000個以上見つかっているが、そのほとんどは太陽系の惑星と同様に、恒星の周りを回っている天体だ。太陽のような恒星が誕生する時に、その周りにガスと塵でできた原始惑星系円盤が形成され、惑星はその円盤の物質を材料として作られると考えられている。

一方、銀河の中心に存在する、太陽の100万倍から10億倍もの質量を持つ超大質量ブラックホールの周りにも、大量のガスと塵からなる円盤が存在する。その塵の量は原始惑星系円盤に含まれる塵の10億倍と莫大なものだ。しかしこれまでは、超大質量ブラックホールと惑星の誕生の間に接点があるとはまったく考えられていなかった。

超大質量ブラックホールと、その周囲を取り巻くガスと塵の円盤の想像図
超大質量ブラックホールと、その周囲を取り巻くガスと塵の円盤の想像図(提供:鹿児島大学)

鹿児島大学の和田桂一さんたちの研究チームは理論計算によって、こうしたブラックホールの周囲を巡る岩石と氷からなる「惑星」という、常識を覆す完全に新しい種類の天体が存在する可能性を世界で初めて提唱した。「条件さえ整えば、どんな恒星の周りでも惑星の形成は起こりえます。私たちは『超大質量ブラックホールの周りにある塵の円盤で惑星形成の条件は満たされるだろうか』という大胆な発想転換をしました」(和田さん)。

一般的な恒星の周りで惑星が作られる過程では、若い星の周りの原始惑星系円盤に含まれる塵が大きくなっていく。中心星から遠く温度が低い場所では、マイクロメートルサイズの岩石の塵が氷をまとった状態で存在しており、互いにぶつかってつながり合っていく。はじめのうちは塵の集合体には隙間がたくさんある「ふわふわ」な状態だが、それら「ふわふわダスト(高空隙率ダスト)」同士がさらに衝突を繰り返すと、衝突の衝撃や自身の重力によって隙間がつぶれて密度が大きくなり、やがてキロメートルサイズの微惑星へと成長する。その微惑星が集まって惑星が形成される。

「この『ふわふわダスト理論』を超大質量ブラックホールの周りに適用したらどうなるかという着想で、詳細な理論計算を行いました。すると驚いたことに、ブラックホールから10光年くらいのところに地球質量の10倍くらいの岩石と氷を主成分とする『惑星』が、1万個程度できることがわかったのです」(国立天文台 小久保英一郎さん)。

ブラックホールの近傍は超高温だが、そこから離れたガスと塵からなる円盤の内部では温度が低く、岩石でできた塵は原始惑星系円盤のものと同様に氷をまとっていると考えられる。そのような塵がふわふわな構造を作りながらメートルサイズまで成長し、あとは恒星の周りの場合と同じ過程で「惑星」へと成長すると考えられる。「ブラックホールの大きさにもよりますが、『惑星』の成長時間は塵が合体成長を始めてからおよそ数億年です。銀河の年齢の100億年に比べれば短い時間です」(鹿児島大学 塚本裕介さん)。

惑星形成のシナリオの比較
(左)太陽のような恒星の周りで起こる惑星形成の標準的なシナリオ。原始惑星系円盤は岩石や氷の塵とガスでできており、雪線(氷が昇華する温度の領域)より遠い側では氷で覆われた岩石の塵が、星に近い側では氷が融けて岩石のみでできた塵が分布している。それらの塵が集積することで惑星が形成される。(右)超大質量ブラックホールを取り巻く円盤で起こると考えられる「惑星」の形成シナリオ。ブラックホールのごく近傍には降着円盤(高速で回転する高温のガス円盤)が、離れた領域にはドーナツ状に塵が分布し回転する「ダストトーラス」と呼ばれる構造が、それぞれ広がっている。ダストトーラスの赤道面は密度が大きく円盤状となり、円盤の低温な領域に氷で覆われた岩石の塵が分布している。その氷と岩石の塵から「惑星」が形成される。画像クリックで表示拡大(提供:国立天文台、鹿児島大学)

今回提唱された新しい種類の「惑星」は、もし存在するとしても、はるか遠くの超大質量ブラックホールの周りの小さな天体にすぎないので、検出する方法は今のところ存在しない。しかし、こうした「惑星」が存在するという理論的可能性が新しく見出されたことにより、これまで考えられていなかった新しい研究分野が開け、さらに詳細な研究や観測手段の考案が進むことが期待される。

超大質量ブラックホールの周りを回る「惑星」の想像図
超大質量ブラックホールの周りを回る「惑星」の想像図(提供:鹿児島大学)

関連記事