「はやぶさ2」最後の小型機「MINERVA-II2」を10月3日に分離へ

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「はやぶさ2」の小型機「MINERVA-II2」が10月3日に分離される。機体を小惑星リュウグウへ落下させ、その挙動を見る実験に使用される。

【2019年10月1日 JAXA

小惑星探査機「はやぶさ2」に搭載されていた4機のローバーのうち、最後に残った「MINERVA-II2」が10月3日に分離されることが発表された。

「MINERVA-II2」は国内の大学連合チーム「大学コンソーシアム」によって開発されたローバーで、山形大学・東北大学・大阪大学・東京電機大学がそれぞれ開発した4種類のホッピング機構と東京理科大学が開発したカメラが搭載されている。

「はやぶさ2」搭載ローバー
「はやぶさ2」に搭載されているローバー。JAXAが開発した「MINERVA-II1」の「Rover-1A(イブー)」「Rover-1B(アウル)」は2018年9月に、またドイツ・フランスが開発した「MASCOT」は同10月にそれぞれ分離され、ともにリュウグウへの着地と表面の移動、画像撮影に成功している。今回分離される「MINERVA-II2」は1機のローバー「Rover-2」からなる。画像クリックで表示拡大(提供:JAXA)

「MINERVA-II2」では打ち上げ前の最終組み立ての時点から、電源オン時にローバーのデータ処理系を正しく初期化できない不具合が生じていた。現在もこの問題が解消していないため、当初計画されていたリュウグウ表面でのホッピング移動や画像撮影といった探査活動は行えない状況だ(参照:「「はやぶさ2」の小型機「MINERVA-II2」に不具合」)。

そこで大学コンソーシアムでは、「MINERVA-II2」の機体を活用して有意義な成果を得る方法を「はやぶさ2」プロジェクトチームと検討し、「MINERVA-II2」を通常のローバー分離高度(数十m)よりも高い高度1kmから分離して、リュウグウの周りを周回しながら落下する様子を「はやぶさ2」のカメラで追跡観測することにした。ローバーの周回・落下運動を観測することで、リュウグウの重力場やリュウグウ内部の質量分布を高い精度で推定できるという。また、小型の人工物を小惑星の周りに周回させる技術を蓄積し、将来の小天体探査ミッションのためのノウハウを得るという工学的な意義もある。

この運用のために「はやぶさ2」は9月28日からリュウグウへの降下を始めており、予定では10月3日の0~2時(日本時間)に高度1kmで「MINERVA-II2」のローバーを分離することになっている。

ローバーは「はやぶさ2」から秒速13〜17cmの速さでリュウグウの自転方向に放出され、1周約17時間でリュウグウを周回する軌道に入るとみられる。計算では、8周ほどリュウグウを周回しながら徐々に高度を下げ、分離から5日後の10月8日ごろにリュウグウ表面に着地する見込みだ。一方、「MINERVA-II2」を分離した「はやぶさ2」は高度8~10kmまで上昇し、ここから「MINERVA-II2」の周回運動をカメラで追跡するという。

大学コンソーシアムの代表を務める東北大学の吉田和哉さんによると、「MINERVA-II2」に搭載されている4種類のホッピング機構のうち、山形大学が開発した機構はモーターを使わず、温度変化でバイメタルが変形する力でホップする仕組みのため、リュウグウ表面でこの機構が作動してローバーが移動する可能性もあるという。しかし、高度8kmから「はやぶさ2」のカメラでローバーを撮影することは難しいため、残念ながら移動を確認できる可能性はほぼない。

「はやぶさ2」プロジェクトチームではこの運用のリハーサルとして、余っているターゲットマーカーをリュウグウに落下させて追跡する運用を9月12日から17日にかけて行った。リハーサルは予定通り終了し、ターゲットマーカーをカメラで撮影することに成功している。

ターゲットマーカー分離運用
9月17日のリハーサルで分離されたターゲットマーカーを「はやぶさ2」の光学航法カメラで撮影した画像。高度1kmで赤道方向(赤い矢印方向)に約12cm/sの速度を与えて分離した後、4秒ごとに撮影した画像を合成。「はやぶさ2」が上昇しながら連続撮影されたため、ターゲットマーカーが見かけ上遠ざかっているが、1分間ほどの連続画像なので実際にはマーカーはほとんど落下していない(提供:JAXA、千葉工大、東京大、高知大、立教大、名古屋大、明治大、会津大、産総研)

「はやぶさ2」の主要なミッションはこの「MINERVA-II2」分離で最後となり、その後は年末のリュウグウ出発に向けた準備が始まる予定だ。

小惑星探査機「はやぶさ2」の記者説明会(19/9/24)ライブ配信

(文:中野太郎)

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