長楕円の軌道を描く系外惑星HR 5183 b

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20年以上にわたる観測で、主星から遠く離れる長楕円軌道を持つ巨大惑星が発見された。惑星が主星に接近する際の加速運動の特徴をとらえることで、公転周期にあたる数十年以上の観測を待たずして存在が明らかになった。

【2019年9月3日 ケック天文台

米・カリフォルニア工科大学のSarah Bluntさん、Andrew W. Howardさんたちは、長い公転周期を持つ系外惑星を見つけるのに必要な、数十年という長期にわたって系外惑星探索を行う数少ない研究チームの一つだ。同チームでは1997年から、米・ハワイのケック天文台の高分散分光器(HIRES)を使って、おとめ座の方向約100光年彼方の6等星「HR 5183」を巡る惑星探しを行ってきた。

そして今回、公転周期が約45年から105年の範囲にある、特異な軌道の惑星HR 5183 bを発見した。

HR 5183 bは木星の3倍の質量を持つ巨大惑星で、長い楕円の公転軌道を持っている。太陽系でいうと、近日点(太陽に最も近づく点)が小惑星帯より内側にあり、遠日点(太陽から最も遠ざかる点)が海王星より外側まで到達するほどの楕円だ。長楕円軌道を持つ巨大惑星はこれまで他の恒星の周りでも見つかっていたが、これほど恒星から遠い場所を公転するものは初めてだ。

HR 5183 bと太陽系の惑星との軌道の比較
HR 5183 bの軌道を太陽系惑星の軌道に重ねた図。塗りつぶされた丸の大きさは各惑星の大きさの比に対応している(提供:Blunt et al. 2019を元に作成)

HR 5183 bは、惑星の重力による主星のふらつきを追跡して系外惑星を発見する「視線速度法」によって発見された。これは従来、惑星の公転1周分の観測データを要する手法で、惑星の軌道が主星から遠く、数十年から数百年もの公転周期を持つ惑星の発見は難しい。

だがHR 5183 bの場合は事情が違った。その長楕円軌道ゆえに、惑星は主星に近づいた際にぎゅいんと加速する特徴的な運動をする。この運動が決め手となり、1周分のデータを待たずして発見に至ったのだ。今回の発見は、主星から離れた遠方の惑星を、何十年も待たずとも視線速度法で検出できることを示す成果でもある。

太陽系とHR 5183 bの軌道を重ねた動画。近日点付近(木星軌道の内側)で急加速しているのがわかる(提供:W. M. Keck Observatory/Adam Makarenko)

「20年以上にわたってHR 5183を追跡してきて、ここ2、3年でやっと惑星の証拠が見えてきたのです。長期にわたる努力なしではこの惑星を発見することはできなかったでしょう。重要なのは粘り強さでした」(Howardさん)。

HR 5183 bは他の多くの惑星同様、主星が誕生した後に残った円盤物質から生まれ、当初は円軌道を描いていたのだろう。ほぼ同サイズの惑星の重力の影響により惑星系の外側へと押し出され、現在のような長楕円の軌道になったと考えられている。