金属元素が流れ出すラグビーボール型の惑星

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ハッブル宇宙望遠鏡の観測により、系外惑星の大気からマグネシウムと鉄が流れ出す様子が初めてとらえられた。

【2019年8月6日 NASA

今回観測された「WASP-121 b」は2015年に発見された系外惑星で、とも座の方向約900光年の距離にあり、質量は木星の1.2倍ほどだ。主星のWASP-121は半径が太陽の1.4倍で表面温度は6400Kと太陽よりやや高い。WASP-121 bはこの主星からわずか380万km(地球から太陽までの距離の1/40)しか離れていない軌道を1.27日周期で公転している。巨大ガス惑星が主星のごく近くを回る、「ホットジュピター」と呼ばれるタイプの惑星だ。

WASP-121 b
WASP-121 bの想像図(提供:NASA, ESA, and J. Olmsted (STScI))

米・ジョンズ・ホプキンズ大学のDavid Singさんを中心とする研究グループは、ハッブル宇宙望遠鏡(HST)の撮像分光計「STIS」を使い、WASP-121 bが主星の前を横切るときに大気を通り抜けてくる光を紫外線の波長で調べた。その結果、マグネシウムや鉄などの重元素が惑星から流れ出していることを発見した。

「金属元素は他のホットジュピターでも見つかっていますが、それらは惑星大気の表面よりもずっと深い場所で検出されていました。そのため、検出された重元素が惑星から流出したものなのかどうかはよくわかっていませんでした。今回私たちはWASP-121 bで、惑星の重力で束縛されないほど遠く離れた場所からマグネシウムと鉄を検出しました」(Singさん)。

通常、ホットジュピターのようなサイズの惑星では内部は十分に低温で、マグネシウムや鉄は雲の中で凝結している。だがこの惑星系では、主星が放射する紫外線が太陽よりも強く、エネルギーも高い。そのため、紫外線によってWASP-121 bの上層大気が約2800Kもの高温に加熱されて、惑星の外に流出しているのだ。

こうした重元素が流れ出すと、惑星の温度はますます上昇することになる。惑星の大気に重元素が含まれていれば、主星からの紫外線は上層大気の重元素が吸収・散乱するために大気の奥深くまでは届かない。しかしWASP-121 bでは重元素が失われつつあるために、大気が紫外線を透過して、余計に強く加熱されていると考えられる。

また、WASP-121 bの主星からの距離は、主星から受ける潮汐力で惑星自体が破壊されるかどうかというぎりぎりの近さだ。そのため、WASP-121 bは潮汐力によって引き伸ばされ、ラグビーボールのような形をしているはずだ。

「この惑星は非常に極端な環境にあるため、観測対象に選ばれました。私たちはもともとマグネシウムを探していましたが、マグネシウムだけでなく鉄がこれほどはっきりと、しかも惑星から遠く離れた場所で検出されたのは驚きでした。これらの重元素が流れ出している理由の一つは、惑星が非常に大きく表面重力が相対的に弱いためです」(Singさん)。

WASP-121 bはNASAの次期宇宙望遠鏡であるジェームズ・ウェブ宇宙望遠鏡(JWST)でも格好の観測目標となるだろう。JWSTは赤外線で水や二酸化炭素を検出できる。HSTとJWSTの観測を組み合わせれば、この惑星の大気成分をより完全に知ることができる。

今回の研究は、系外惑星の観測プログラム「PanCET(Panchromatic Comparative Exoplanet Treasury)」の一環として行われた。このプログラムは、HSTを使い、スーパーアース(地球より大きな岩石質惑星)から木星サイズの惑星まで、20個の系外惑星を紫外線・可視光線・赤外線で比較観測する初めての大規模な観測プロジェクトだ。

WASP-121 bの観測結果は、「惑星が原始大気をどのように失うか」というシナリオを解明する上でも手がかりを与えるかもしれない。形成直後の惑星は、原始惑星系円盤と呼ばれるガス円盤のガスを大気としてまとっている。この原始大気は水素とヘリウムという、宇宙に最も多く存在している軽いガスからなる。その後、惑星が主星に近づくにつれて原始大気は散逸すると考えられるが、今回の観測結果はこの散逸のメカニズムにヒントを与えるかもしれないのだ。

「ホットジュピターの大気はほとんど水素でできています。これらの惑星が比較的容易にガスを失いうることはこれまでの観測から知られていました。しかしWASP-121 bの場合、水素とヘリウムは川のようにたえず流出していて、重元素もこれと一緒に流れ出しています。惑星大気が失われるメカニズムとしては非常に効率の良いものです」(Singさん)。

(文:中野太郎)

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