新種族の天体を大量に発見、ミッシング・バリオンの可能性

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ハッブル宇宙望遠鏡でとらえた画像を用いて「宇宙の明るさ」のゆらぎを解析したところ、これまでゴミと思われていた光の点が、新たな種族の天体であることが明らかになった。従来の観測では把握できなかった「ミッシング・バリオン」かもしれない。

【2019年8月1日 東京都市大学

これまでに赤外線宇宙望遠鏡「IRTS」や「あかり」による近赤外線領域の観測から、宇宙の明るさ、およびその「ゆらぎ」が既知の天体から予想されるより大きいことが見出されている。また、可視光線でも空が予想より明るいことが確認されており、宇宙には「未知の光源」が存在することが予想されていた。

JAXA宇宙科学研究所の松本敏雄さんと東京都市大学の津村耕司さんは、ハッブル宇宙望遠鏡が撮影した、現時点で人類が手にしている最も暗い天体まで写っている「ハッブル・エクストリーム・ディープ・フィールド」の画像の空間構造を解析し、新たな情報を引き出すことを試みた。

元画像と明るさの空間構造を浮かび上がらせた画像
(左)ハッブル宇宙望遠鏡がとらえた元画像、(右)33等級より明るい銀河など多数の天体をマスクし、宇宙の明るさを強調して、宇宙の明るさの空間構造(ゆらぎ)を浮かび上がらせたもの(提供:東京都市大学リリースページより、以下同)

解析の結果、画像に写っている、これまではゴミだと思われていた暗く小さな光の点が、実は以下のような特徴を持つ天体として数多く存在することが明らかになった。

  • 点源と区別できない、直径30光年以下のたいへん小さな天体である
  • 見た目の等級が30等級より暗い、たいへん暗い天体である。天の川銀河内にある最も暗い恒星よりも暗いことから、恒星ではないと考えられる
  • 別のガンマ線観測の結果を考慮すると、約13億年前に急に明るくなり、その後、数億年以内に暗くなったとみられる
  • 質量・光度はそれぞれ太陽の約300倍、1,000倍と推定される
  • 最大に見積もると、全天で1,000兆個ほど存在する天体である

こうした特徴から松本さんたちは、これらが新たな種族の天体である可能性があると結論づけ、「フェイント・コンパクト・オブジェクト(Faint Compact Object; FCO)」と名付けた。その正体は現時点では不明だが、小さめのブラックホールに物質が落ち込む時に光り輝く「ミニ・クエーサー」などが候補として考えられている。

フェイント・コンパクト・オブジェクトが存在する宇宙空間のイラスト
フェイント・コンパクト・オブジェクト(FCO)が存在する宇宙空間の一部を描いたイラスト。FCOは13億年前に急に明るくなり、数億年以内に暗くなった

今回発見されたFCOは、「ミッシング・バリオン」と呼ばれる未発見の物質の正体かもしれない。宇宙は正体不明の「暗黒物質」と「暗黒エネルギー」に満たされており、身近な物質である「バリオン(原子や分子などで構成された普通の物質)」は、宇宙の中にわずか5%程度しか存在しないことがわかっている。そのバリオンも、星や銀河、星間ガス等として観測されている量はおよそ半分で、残り半分はまだ見つかっていないのだ。

ミッシング・バリオンの説明図
ミッシング・バリオンの説明図

もし、FCOが理論予想よりも明るい「宇宙の明るさ」を説明するものであれば、FCOは宇宙に大量に存在し、「ミッシング・バリオン」の正体でもある可能性が出てくる。

研究チームでは、ハッブル宇宙望遠鏡の18倍の感度で宇宙の明るさを測定できるロケット実験「CIBER-2」や、惑星探査機に搭載した望遠鏡で木星軌道から宇宙の明るさを測定する「EXZIT」など、より詳細に宇宙の明るさを測定する計画を進めている。FCOの正体やミッシング・バリオン問題が解明されることが期待される。