「ケプラー」初検出の天体、10年後にようやく系外惑星と確認

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NASAの衛星「ケプラー」が2009年に検出した同ミッション初の惑星候補が確かに系外惑星であることが、発見から10年ぶりに確認された。

【2019年3月12日 ハーバード・スミソニアン天体物理学センター

NASAの探査衛星「ケプラー」は2009年から2018年11月まで運用された、太陽系外惑星の探索を行う宇宙望遠鏡だ。惑星が主星の手前を横切ることで主星が暗くなる減光現象をとらえる「トランジット法」を用いて、9年間のミッションで系外惑星を2600個以上も発見した。

2009年にケプラーの運用が始まって最初に減光現象が見つかった恒星には「KOI (Kepler Objects of Interest) 4」という番号が付けられ、この星に存在するかもしれない惑星候補天体は「KOI 4.01」と呼ばれた。恒星の中には惑星の通過と似たような減光を引き起こす変光星などもあるため、ケプラーの観測で見つかった候補天体が本当に惑星かどうかを判定するには、より詳しい分析が必要になる。

だが、後から発見された候補天体が次々に惑星だと確認されていく中で、「KOI 4.01」は惑星候補のまま何年も残されていた。実は当初の解析で、主星であるKOI 4の直径の見積もりが間違っていたため、KOI 4もKOI 4.01も、実際より大幅に小さい直径が推定されていた。その結果、KOI 4で観測された減光は2つの天体のサイズとつじつまが合わないとして、KOI 4.01は惑星ではないと判定されてしまっていたのだ。

そんな中、米・ハワイ大学の大学院生Ashley Chontosさんは、最初の研究テーマとして、ケプラーが観測した主星のデータを解析し直すという仕事にたまたま取り組むことになった。Chontosさんたちが行った新たな解析方法は、主星の内部を伝わる「音波」によって主星がわずかに脈動する様子をケプラーのデータから読み取り、これを使って主星のサイズや質量を求めるというものだ。このような手法は「星震学」と呼ばれている。

「この解析から、KOI 4の直径はこれまでの推定値より3倍も大きいという結果が得られました。これによって、惑星候補KOI 4.01はまさしくホットジュピター(主星のすぐそばを公転する高温の巨大惑星)であることがわかったのです」(Chontosさん)。

さらに、米・スミソニアン天文台でKOI 4の分光観測も行われ、KOI 4.01が惑星であることが約10年ぶりに確認された。これを受けて、主星KOI 4は「Kepler-1658」、KOI 4.01は「Kepler-1658 b」と命名された。この惑星系は、はくちょう座の方向約2600光年彼方に位置している。

Kepler-1658 bと主星
Kepler-1658 b(左)とその主星(右)の断面図のイラスト。研究チームでは、主星の内部を伝わる音波(赤い曲線)を利用して主星と惑星の大きさなどを推定し、惑星が主星の周りをわずか3.8日周期で公転していることがわかった(提供:Gabriel Perez Diaz/Instituto de Astrofísica de Canarias)

Kepler-1658は太陽の1.5倍の質量を持ち、直径は太陽の3倍もある準巨星だ。この主星は太陽の未来の姿ともいえる進化段階にある。また、Kepler-1658 bの軌道半径は主星の直径の2倍しかない。巨星の段階まで進化した主星の周りを回る惑星としては、Kepler-1658 bはこれまで見つかった中で最も主星に距離が近いものの一つだ。もし惑星の表面から主星を眺めると、地球から見た太陽の視直径の60倍もの大きさに見えるはずだ。

Kepler-1658のように進化した巨星を回っている惑星は珍しいが、こうした惑星があまり見つからない理由はほとんどわかっていない。主星からの距離が近い巨大惑星は螺旋を描くようにだんだんと公転軌道が落ち込んでいき、最終的には主星の潮汐力で破壊されてしまうので数が少ない、という説もある。巨星のすぐそばを公転する巨大惑星というKepler-1658 bの極端な性質を調べることで、惑星と主星の間で起こる複雑な相互作用について、新たな知見が得られるかもしれない。

「Kepler-1658は、系外惑星の主星を深く理解することがなぜ大事なのかを教えてくれる格好の例です。さらに、ケプラーで得られたデータにはまだまだたくさんの宝が眠っていることも教えてくれています」(Chontosさん)。

(文:中野太郎)