重い星は晩年に2段階でやせ細る

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重い星が晩年に質量を失うメカニズムを統一的に説明するモデルが、超新星の観測に基づいて初めて提唱された。伴星の重力と自らの恒星風が順に働いてやせていくという。

【2019年3月11日 京都大学

質量が太陽と同じくらいかそれよりも重い星は、一生の終わりになると半径が大きく膨らんだ赤色巨星となり、外層の物質が宇宙空間に流れ出して“やせる”時期を迎える。太陽質量くらいの星は水素の核融合反応で100億年ほど安定して輝いた後、こうした質量放出をする段階に進み、この時代に流れ出した物質は、後に惑星状星雲として観測される。

質量が太陽の10倍くらいの大質量星は寿命がずっと短く、1000万年ほどしかない。このような大質量星では、質量放出は生涯の最後のわずか100万年ほどの間に起こり、最終的には超新星爆発を起こして一生を終える。この晩年の質量放出によって、大質量星は誕生時の3分の1ほどの質量にまでやせてしまう場合もあるが、具体的にいつ、どのようなメカニズムで質量が流れ出すのかについてはよくわかっていない。

終末期の大質量星から質量が流れ出すモデルには大きく2つある。一つは、他の星と連星になっている大質量星が、水素燃焼が終わった後で急激に膨張して赤色超巨星となり、相手の星に接触するほど近づくため、外層が伴星の重力で引きはがされるという「連星進化説」だ。もう一つは、大質量星が晩年になるときわめて明るくなるために、強力な恒星風が起こって質量を失うという「単独活動説」である。

大質量星は数が少なく寿命も短いため、“やせ細る”段階を直接観測できる例は非常に少ない。そこで、京都大学大学院理学研究科の方其亮さんと前田啓一さんたちは、大質量星の最期である超新星爆発の観測例に注目することにした。研究チームでは、超新星爆発から200日ほど経ったころに見られるスペクトルを調べると、星の「誕生時の質量」と「爆発前のヘリウム層の量」を精度よく見積もれることを過去の研究で明らかにしていた。そこで、

  • 水素の外層がわずかに残る星(IIb型超新星)
  • 水素の外層をすべて失ってヘリウム層がむき出しになった星(Ib型超新星)
  • ヘリウム層も失って酸素コアがむき出しになった星(Ic型超新星)

の3タイプの超新星爆発についてこれらの量を見積もったところ、誕生時の質量が大きな星ほど、超新星爆発の直前に残っているヘリウム層が少ないというはっきりした関係があることがわかった。

また、水素の外層が残っているIIb型と水素が残っていないIb型では傾向に差がなく、水素もヘリウムも失っているIc型は前の2タイプよりも誕生時の質量が大きいことも明らかになった。

星の誕生時の質量と爆発直前のヘリウム層の量
超新星のスペクトルから導かれた、星の誕生時の質量と爆発直前のヘリウム層の量の関係。横軸がこれらの星の誕生時の質量で、右に行くほど大きい。縦軸が爆発直前のヘリウム量で、上に行くほど多い。マークの違いは超新星のタイプの違いを表す(提供:プレスリリースより、Fang, Maeda et al.)

方さんたちはこの解析結果から、大質量星の晩年の質量放出は以下のようなものだと考えている。

  • 大質量星は、余命が残り1割を切る時期を迎えると大きく膨らんで赤色超巨星になる。大質量星の多くは連星系で伴星を持つため、膨張によって水素の外層が相手の星に向かって流出する。水素の大部分または全部がなくなると、星は収縮して質量放出は止まる。
  • その後の運命は質量に応じて2通りに分かれる。
    • 比較的軽い星ではそのまま超新星爆発を起こし、IIb型あるいはIb型超新星となる。
    • より重い星では、自らの恒星風などによってヘリウム層もすべて流出してから超新星爆発を起こし、Ic型超新星となる。

つまり、「連星進化説」と「単独活動説」はどちらかが正しいのではなく、2つが段階的に働くことで水素外層・ヘリウム層が順に放出されるというのだ。

大質量星の終末期の進化
今回の研究から明らかになった、大質量星の終末期の進化の様子(提供:前田啓一さん)

「今回、修士課程1回生の方さんが大変すばらしい結果を出してくれました。今回の結果から判断すると、『減量・ダイエットを始めるにはまず親しい人の助けが必要、最終的にどこまで行けるかは自分自身の努力次第』というのは、星でも人間でも共通のようです」(前田さん)。

超新星や突発天体の研究は現在急激に発展しつつある分野で、観測データも質、量ともに急速に増えている。今後データがさらに増えれば、超新星の爆発機構は元の星の質量などの性質によるのか、といった問題にも取り組むことが可能になるという。京都大学で稼働を開始した口径3.8m「せいめい」望遠鏡でも、重要な研究対象として大規模な観測が計画されている。

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