Ic型超新星の前駆星候補を初検出

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Ic型超新星はこれまで、爆発前の天体が特定されたことがなかったが、2017年に近傍の渦巻銀河に出現した超新星の前駆星と推定される天体が、ハッブル宇宙望遠鏡のアーカイブの中からついに発見された。

【2018年11月21日 NASAカリフォルニア工科大学カリフォルニア大学サンタクルーズ校ケック天文台

太陽よりもはるかに質量の大きい恒星は、一生の最期に重力崩壊型超新星爆発を起こす。こうした超新星爆発を起こす前の天体、前駆星を見つけることができれば、どのくらいの質量の星がどのくらい誕生するかという割合や、大質量星の進化の様子などを調べることができる。

重力崩壊型超新星のうち約2割を占めるIc型超新星は、質量が太陽の30倍以上もある大質量星が、水素やヘリウムから成る外層を失った後に起こす爆発現象と考えられている。外層がなくなっても爆発前の星は明るく質量も大きいはずだが、これまでIc型超新星の前駆星が見つかったことはなかった。

2017年5月、おおぐま座の方向約6500万光年の距離に位置する渦巻銀河NGC 3938に、Ic型超新星2017ein(SN 2017ein)が出現した。

SN 2017ein
渦巻銀河「NGC 3938」の画像に現れたIc型超新星「SN 2017ein」。右下はSN 2017einを中心にした周辺領域の拡大画像(左が2007年、右が2017年)(提供:NASA, ESA, S. Van Dyk (Caltech), and W. Li (University of California))

米・カリフォルニア工科大学のSchuyler Van Dykさんたちの研究チームは、翌月にこの超新星をハッブル宇宙望遠鏡(HST)で撮影し、正確な位置を測定した。さらにVan Dykさんたちは、HSTが過去に撮影した同銀河の画像アーカイブをくまなく調べ、2007年に撮影された画像中にSN 2017einの前駆星と推定される天体を発見した。「初めて、前駆星の候補天体をはっきりと見つけることができました」(Van Dykさん)。

同じころ、米・カリフォルニア大学サンタクルーズ校のCharles Kilpatrickさんたちの研究チームも、ケック天文台の赤外線撮像分光器「OSIRIS」と補償光学システムでSN 2017einの位置を高精度で観測した。そして、Van Dykさんたちと同じHSTのアーカイブデータと突き合わせることで、同じ候補天体を見つけ出した。

「SN 2017einが地球から近く、他のIc型超新星の5~10倍も明るかったという幸運に恵まれたおかげで、簡単に見つかったのかもしれません。これまでに多くのIc型超新星が観測されてきましたが、あまりに遠方であったため、HSTではそれらを解像することができませんでした。Ic型超新星の研究には、もっと近くの銀河内で起こる、明るく質量の大きな星の爆発が必要とされていたのです」(Kilpatrickさん)。

前駆星の候補天体を詳しく調べたところ、この星は青く非常に高温であったことが示された。その結果から、前駆星は太陽質量の45~55倍もある単独の大質量星か、または、太陽の60~80倍と48倍の質量を持つ大質量星の連星系のうち重いほうだと考えられている。理論的には単独星シナリオも連星系シナリオもありえるが、連星系の場合は従来のモデルではもっと軽い星と考えられてきたため、今回の結果は謎である。

Ic型超新星爆発を起こした青色超巨星の想像イラスト
Ic型超新星爆発を起こした青色超巨星の想像イラスト。単独星シナリオの場合が描かれている(提供:NASA, ESA, and J. Olmsted (STScI))

発見された候補天体が本当にSN 2017einの前駆星かどうかは、約2年後に超新星が暗くなった時、そこから姿を消していることで確認できる。その確認のため、また、天体の明るさや質量を詳しく調べるため、SN 2017einは今後も継続して観測が行われる。