100億年前に天の川銀河と衝突した銀河「ガイア・エンケラドス」

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位置天文衛星「ガイア」の観測データなどを使った研究から、天の川銀河の内側のハローに分布する恒星の大半が、約100億年前に天の川銀河と衝突、合体した銀河「ガイア・エンケラドス」からやってきたものらしいことが明らかになった。

【2018年11月7日 ヨーロッパ宇宙機関フローニンゲン大学

天の川銀河のような大きな銀河は、他の銀河との衝突、合体を繰り返して現在見られるような姿になったと考えられている。しかし、天の川銀河が多くの小銀河の合体で形成されたのか、あるいは比較的大きな数個の銀河の合体で形成されたのかは、まだわかっていない。

オランダ・フローニンゲン大学のAmina Helmiさんたちの研究チームは、ヨーロッパ宇宙機関(ESA)の位置天文衛星「ガイア」が観測した恒星のデータから、天の川銀河の過去を探る研究を行っている。今年4月に公開されたガイアの第2期データ「DR2」には、約17億個の恒星の位置や運動の情報が含まれており、とくにそのうち700万個の星については3次元的な速度も測定されている。

研究チームが星の動きをプロットしてみたところ、3万個ほどの星の動きが、天の川銀河に含まれる約1000億個の星の大部分とは反対方向であり、細長い軌道を描いている様子が明らかになった。また、地上からのAPOGEEサーベイで得られたデータで星の化学組成を調べたところ、奇妙な動きの星々は共通して、天の川銀河の星々とは異なる性質を持っていることもわかった。奇妙な動きの星々は、銀河を球状に取り巻く「ハロー」と呼ばれる部分の大半を占めている。

変わった動きを見せる星々
シミュレーション結果と観測データを元に作られた、変わった動きを見せる星々の位置や運動を示したイラスト(提供:ESA (artist's impression and composition); Koppelman, Villalobos and Helmi (simulation); NASA/ESA/Hubble (galaxy image), CC BY-SA 3.0 IGO)

過去に行われたシミュレーション研究の結果と比較すると、これらの星々は、約100億年前に若い天の川銀河と衝突、合体した銀河からやってきたものと考えられる。研究チームでは衝突したとされる銀河を「ガイア・エンケラドス」と名付けた。エンケラドスはギリシャ神話の巨神で、女神ガイアの子だ。ガイア・エンケラドスの質量は小マゼラン雲より少し大きい程度で、100億年前のまだ小さかった天の川銀河に対して4分の1ほどだった(相対的にはかなり大きかった)と見積もられている。

天の川銀河の形成初期に起こった他の銀河との合体シミュレーションの動画(提供:Koppelman, Villalobos & Helmi, Kapteyn Astronomical Institute, University of Groningen, The Netherlands)

また、この衝突によって天の川銀河の円盤部が加熱され、厚みが増したことも示されている。「神話では、エンケラドスはシチリア島のエトナ火山の下に埋められており、地震が起こるのは彼のせいだとされています。同じように、ガイア・エンケラドスの星々はガイアの観測データの中に埋められていました。その星々は天の川銀河を揺らし、厚い円盤を形成したのです」(Helmiさん)。

さらに、ガイア・エンケラドス由来の星々と同じような軌道で動く、数百個の変光星と13個の球状星団も見つかっている。

ガイア・エンケラドス由来と考えられる天体の全天分布図
ガイア・エンケラドス由来と考えられる天体の全天分布図。カラースケールは普通の星で、紫は太陽に近く黄色が遠い。白い円は球状星団、星マークは変光星(提供:ESA/Gaia/DPAC; A. Helmi et al. 2018)

「全天に散らばった星々の動きを調べることで、私たちは天の川銀河の歴史を巻き戻し、銀河の形成過程における大きなマイルストーンを発見することができます。それを可能にしてくれるのは、ガイアのおかげです」(ESAガイアプロジェクト Timo Prustiさん)。

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